涙の数より空(キミ)が笑ってくれるなら。
「あ。あと10秒でチャイム鳴るよ。いーち、にー」
「わっきゃははっ、青笑さんも行くよ!」
先生が秒針を数え始めて、また二人に腕を引かれる。
強引で、跡が付きそうなほど痛い。
遠ざかっていく先生の目に光はなく、ただ黒くわらっていた。
「わたしたち青笑さんのこと思って言ってるから、わかってくれるでしょ?」
授業が終わったあと、誰もいない更衣室で二人が言った。
私のこと、本当に思ってくれてるの……?
二人の揺らぐ瞳が空を捉える。
優しく手を取られて、きゅっと握ってくれた。
「わたしたち友達」
もう分からないよ。
振り払うことのできない感情にとらわれて逃げられない。
そこに自由なんてなかった。
「今日、放課後カフェいこっ」
「いいねっ」
教室に入ったら何か変わるわけなくて、
「青笑さんもっ……あっ、てか、名前で呼んでいいっ?」
「ぅ、うん」
「なんだっけ、そら?」
「空」
「めっちゃ可愛い名前じゃんね」
「わかる、モテそう」
「……ありが、とう」
痛みの中に、僅かな光が見え隠れする。
隠れて隣に目をやると、自分なんかうつしていなかった。
りょうたはあの二人と、楽しそうに話をしている。