涙の数より空(キミ)が笑ってくれるなら。


三編み天然ちゃん、桜田 ららと、彼氏の永瀬 蛍。



「ほたるじゃなくて……けい」



そんな話をしていたのがすでに懐かしい。



「ん、……なんか言った?」

「いや、ぅぅん、」



もう話すことは、ないのかもしれない。

直感的にそう思った。



「青笑さんも行くよね」

「……空は……わたしは今日用事あるんだ、」

「えーっ」

「、ごめん」

「あ、じゃぁせめてお昼ごはんいっしょにたべようねっ」

「あ、あー……」



お昼は持ってきてない、それに……



「ご、ごめんトイレ行ってくるね」



あの時間は、あの時間だけは自由でいたいんだ。

愛想笑いを作って教室を出る。

用事なんて、なにもないくせに。

足がどこにも向かない。

立ち止まって顔を上げた先、非常階段につながるドアから、微かに光が指している。

呼ばれるように歩み寄っていった。


ーーぁ


非常階段に誰かが座っている。

空を見上げるわけでもなく、ただ遠くをぼうっと。

ひとつに結ばれた黒い髪の束の隙間から、風に吹かれて赤が見える。



「……なに?」

< 96 / 160 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop