涙の数より空(キミ)が笑ってくれるなら。
三編み天然ちゃん、桜田 ららと、彼氏の永瀬 蛍。
「ほたるじゃなくて……けい」
そんな話をしていたのがすでに懐かしい。
「ん、……なんか言った?」
「いや、ぅぅん、」
もう話すことは、ないのかもしれない。
直感的にそう思った。
「青笑さんも行くよね」
「……空は……わたしは今日用事あるんだ、」
「えーっ」
「、ごめん」
「あ、じゃぁせめてお昼ごはんいっしょにたべようねっ」
「あ、あー……」
お昼は持ってきてない、それに……
「ご、ごめんトイレ行ってくるね」
あの時間は、あの時間だけは自由でいたいんだ。
愛想笑いを作って教室を出る。
用事なんて、なにもないくせに。
足がどこにも向かない。
立ち止まって顔を上げた先、非常階段につながるドアから、微かに光が指している。
呼ばれるように歩み寄っていった。
ーーぁ
非常階段に誰かが座っている。
空を見上げるわけでもなく、ただ遠くをぼうっと。
ひとつに結ばれた黒い髪の束の隙間から、風に吹かれて赤が見える。
「……なに?」