恋する耳たぶ

「大体、紬未さんは人が良すぎるんですよ。さっきだって、江村さんの失敗カバーしてあげて、課長の理不尽な指示受けてたじゃないですか。いつもああやってうまいことやってあげるから、あの人はつけあがって」
「真凡ちゃん、真凡ちゃん。個室だけど、ここ一応、社内だから」

誰かに聞かれちゃうよ、と、慌てて声が大きくなりかけたのを宥めると、真凡ちゃんは不服そうに声のトーンを落とした。

「あの人達のことだけじゃなく、いつも面倒なこととか引き受けて……損してると思います」
そこで、軽く唇を噛むようにして口をつぐんだ後、小さな声でこぼす。
「紬未さんは……優しいから」

いつも強気で、ツンとすました猫みたいな雰囲気の真凡ちゃんの、意外な言葉に、返す言葉を失う。

普段は褒めたりしない子の、こういう言葉って、なんかクるよね。
真凡ちゃんの彼氏さんは、こういう一面がたまらないんだろうなぁ。

いやーん!と叫びながら、この気持ちを表現するため、全身をくねくねさせたい衝動を抑えていると、真凡ちゃんは何も言わない私の様子を窺うように、上目遣いでちら、と見上げてきた。


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