【完】絶えうるなら、琥珀の隙間
「っ弥依彦様!入ります!」
業を煮やしたらしいハヤセミが、そんな声と共に遂に勢い良く布を捲り上げた――――
"呆然自失"
正にそんな言葉が相応しい表情だった。
「な、なにが、一体……?」
のたうち回る弥依彦と、そして何故か主の寝台で手を縛られて半裸状態のカヤ。
混沌としたその情景に、さすがのハヤセミも言葉を失っていた。
ハヤセミの後から入ってきた翠もまた、部屋の様子を眼にした瞬間に立ち尽くした。
「……カ、ヤ……?」
翠の視線が彷徨いながらカヤの顔、そして肌の色がはっきりと透けて見えているであろうこの身体に注がれる。
驚愕したように目を見開く翠の後方には、なんとタケルとミナトの姿までもあった。
4人の男にあられもない姿が晒され、カヤの思考は見事なほど完全に停止した。
「っハ、ハヤ……ハヤセミィ……!くるしっ、……たすけ……!」
沈黙を破ったのは、弥依彦の助けを求める声だった。
「弥依彦様!」
「カヤ!」
刹那、意識を取り戻したハヤセミと翠が同時に叫んだ。
「弥依彦様!しっかりなさって下さい!」
ハヤセミはすぐさま弥依彦の隣に膝を下ろし、痙攣するように戦慄く身体に向かって呼びかける。
翠はと言うと、弥依彦には眼もくれる事無く一直線にカヤの方へ向かってきた。
「大丈夫か」
険しい表情でそう言いながら、翠は自らの肩に羽織っていた衣をそっとカヤに掛けてくれた。
ふわり、と甘い匂いがして、衣に移っていた翠の体温が寒々しかったカヤの身体を包む。
(あ、この匂いだ……)
先ほど望んだ香りが、まさか嗅げるとは。
呆けたようにカヤが頷くと、ほっとしたように一瞬だけその表情が和らいだ。
しかし次の瞬間にはカヤに背を向け、翠は未だ入口に突っ立っているミナトに向かって叫んだ。
「ミナト!カヤを!」
「は、はい!」
弾かれたように返事をしたミナトは、小走りでこちらに向かってきた。
それと入れ替わるようにして、翠はカヤから離れ、弥依彦の隣に膝を付く。
「弥依彦殿!大丈夫か!」
そう呼びかける翠の背中を見つめていると、視界にミナトの顔が入り込んできた。
その表情は、困惑しつつも明らかな怒りを浮かべている。
「ミナト……」
「手ぇ出せ、この馬鹿が。なんでこんな所に居んだよ」
吐き捨てるように言われ、口ごもる。
優しさもへったくれも無いその態度こそいつも通りのミナトなのだが、今の心情には少し厳しかった。
「ごめん……」
俯きながら、おずおずと両手を差し出す。
ミナトは怒った様なその態度とは裏腹に、割と優しい手つきで腰紐を解いてくれた。
「怪我は?無いんだな?」
カヤの手首を解き放ったミナトが、俯く顔を覗き込んでくる。
「ない、です」
途切れながらした返事に、ミナトが深く息を吐いた。
安堵の感情が見て取れるその表情に、随分心配をさせてしまったのだとやっと気が付いた。
業を煮やしたらしいハヤセミが、そんな声と共に遂に勢い良く布を捲り上げた――――
"呆然自失"
正にそんな言葉が相応しい表情だった。
「な、なにが、一体……?」
のたうち回る弥依彦と、そして何故か主の寝台で手を縛られて半裸状態のカヤ。
混沌としたその情景に、さすがのハヤセミも言葉を失っていた。
ハヤセミの後から入ってきた翠もまた、部屋の様子を眼にした瞬間に立ち尽くした。
「……カ、ヤ……?」
翠の視線が彷徨いながらカヤの顔、そして肌の色がはっきりと透けて見えているであろうこの身体に注がれる。
驚愕したように目を見開く翠の後方には、なんとタケルとミナトの姿までもあった。
4人の男にあられもない姿が晒され、カヤの思考は見事なほど完全に停止した。
「っハ、ハヤ……ハヤセミィ……!くるしっ、……たすけ……!」
沈黙を破ったのは、弥依彦の助けを求める声だった。
「弥依彦様!」
「カヤ!」
刹那、意識を取り戻したハヤセミと翠が同時に叫んだ。
「弥依彦様!しっかりなさって下さい!」
ハヤセミはすぐさま弥依彦の隣に膝を下ろし、痙攣するように戦慄く身体に向かって呼びかける。
翠はと言うと、弥依彦には眼もくれる事無く一直線にカヤの方へ向かってきた。
「大丈夫か」
険しい表情でそう言いながら、翠は自らの肩に羽織っていた衣をそっとカヤに掛けてくれた。
ふわり、と甘い匂いがして、衣に移っていた翠の体温が寒々しかったカヤの身体を包む。
(あ、この匂いだ……)
先ほど望んだ香りが、まさか嗅げるとは。
呆けたようにカヤが頷くと、ほっとしたように一瞬だけその表情が和らいだ。
しかし次の瞬間にはカヤに背を向け、翠は未だ入口に突っ立っているミナトに向かって叫んだ。
「ミナト!カヤを!」
「は、はい!」
弾かれたように返事をしたミナトは、小走りでこちらに向かってきた。
それと入れ替わるようにして、翠はカヤから離れ、弥依彦の隣に膝を付く。
「弥依彦殿!大丈夫か!」
そう呼びかける翠の背中を見つめていると、視界にミナトの顔が入り込んできた。
その表情は、困惑しつつも明らかな怒りを浮かべている。
「ミナト……」
「手ぇ出せ、この馬鹿が。なんでこんな所に居んだよ」
吐き捨てるように言われ、口ごもる。
優しさもへったくれも無いその態度こそいつも通りのミナトなのだが、今の心情には少し厳しかった。
「ごめん……」
俯きながら、おずおずと両手を差し出す。
ミナトは怒った様なその態度とは裏腹に、割と優しい手つきで腰紐を解いてくれた。
「怪我は?無いんだな?」
カヤの手首を解き放ったミナトが、俯く顔を覗き込んでくる。
「ない、です」
途切れながらした返事に、ミナトが深く息を吐いた。
安堵の感情が見て取れるその表情に、随分心配をさせてしまったのだとやっと気が付いた。