【完】絶えうるなら、琥珀の隙間
本来ならばハヤセミとの交渉の席では、話しを引っ張れるだけ引っ張って、どうしようもなくなったら翠が嫁に行く事を了承する算段であった。
水路の件を持ち掛け、あちらが了承すれば毒酒を使用せずに済むためだ。
毒酒は、あくまでも突っぱねられた場合の最終手段として使う計画であったそうだ。
だと言うのに、勝手に翠の窮地だと感じたカヤが、自ら『国に戻る』と言いだしてしまった。
翠の事もカヤの事も諦めてもらう、と言うのが目的だったにも関わらず、その張本人が目的を根底から覆そうとしてしまったのだ。
狂いそうになる計画を無理やりに戻すため、咄嗟に翠がカヤの髪を切り、戻る理由を潰すしかなかった。
まず、それが一つ目。
そして、無事に計画通り弥依彦に酒を飲ませ、2人は頃合いを見計らってハヤセミと共に私室へ赴くつもりだった。
翠達は一切何もしていないのに、弥依彦が唐突に苦しみ出すのをハヤセミ自身の目で目撃させる事により、弥依彦が原因不明の未知の力で苦しんでいる感を演出したかったのだ。
後は『神が私達の婚姻は望んでいないのだ』など、適当な理由をつけて魂の繋がりを解くふりをするつもりだったらしい。
魂の繋がりを解いてしまえば、2人は二度と夫婦にはなれない。かくして婚礼も破断せざるを得ない。
しかし、弥依彦の部屋を訪れた翠もタケルもそれはもう度肝を抜かれた。
なぜかそこにはカヤが居て、あろう事か手籠めにされかけていたのだから。
それが二つ目。
さすがに焦った翠だったが、当初の計画を変更し、カヤとの不貞を理由にして婚姻帳消しへと話しを持って行ったそうだ。
実は、弥依彦の部屋を訪ねたあたりから、翠は自分の身体の不調を感じていた。
前日にチカータを食べていたとはいえ、量が足りていなかったためだ。
それでもまだあの時は、気を張っていれば平常を保てる程度ではあった。
――――ハヤセミと弥依彦の愚かな発言が無ければ。
激しく憤り気が高ぶった翠は、それによって毒の周りを良くしてしまった。
なんとか形だけの言霊を唱えたのは良いものの、そのままぶっ倒れてしまい、そして今に至る。
それが三つ目、と言うわけであった。
「えーと、と言う事は……」
翠が順を追って説明してくれたため、なんとか話しを理解したカヤは、ついでに違う事も理解し始めていた。
「私は二人の計画の邪魔をしただけ……?」
顔を見合わせた翠とタケルは、何とも言えない表情をした。
「……まあ、そうとも言うな」
率直に答えたのはタケルだ。
カヤは、あまりの眩暈にその場に崩れ落ちた。
「そ、そんな……」
こんにも嬉しくない奇跡が、あっても良いのだろうか?
良かれと思ってした事が、ことごとく二人の企てを妨害していたとは。
違う意味で涙が出そうになってきたカヤに、タケルが声を掛けた。
「おい娘。傷心している所すまないが、次はそなたが説明をする番だ。何故、弥依彦の部屋に居た?」
「……もしや弥依彦に無理やり連れ込まれたのではあるまいな」
大変に低い声で言ったのは翠だ。
激高した時の声色と似たものを感じる。
水路の件を持ち掛け、あちらが了承すれば毒酒を使用せずに済むためだ。
毒酒は、あくまでも突っぱねられた場合の最終手段として使う計画であったそうだ。
だと言うのに、勝手に翠の窮地だと感じたカヤが、自ら『国に戻る』と言いだしてしまった。
翠の事もカヤの事も諦めてもらう、と言うのが目的だったにも関わらず、その張本人が目的を根底から覆そうとしてしまったのだ。
狂いそうになる計画を無理やりに戻すため、咄嗟に翠がカヤの髪を切り、戻る理由を潰すしかなかった。
まず、それが一つ目。
そして、無事に計画通り弥依彦に酒を飲ませ、2人は頃合いを見計らってハヤセミと共に私室へ赴くつもりだった。
翠達は一切何もしていないのに、弥依彦が唐突に苦しみ出すのをハヤセミ自身の目で目撃させる事により、弥依彦が原因不明の未知の力で苦しんでいる感を演出したかったのだ。
後は『神が私達の婚姻は望んでいないのだ』など、適当な理由をつけて魂の繋がりを解くふりをするつもりだったらしい。
魂の繋がりを解いてしまえば、2人は二度と夫婦にはなれない。かくして婚礼も破断せざるを得ない。
しかし、弥依彦の部屋を訪れた翠もタケルもそれはもう度肝を抜かれた。
なぜかそこにはカヤが居て、あろう事か手籠めにされかけていたのだから。
それが二つ目。
さすがに焦った翠だったが、当初の計画を変更し、カヤとの不貞を理由にして婚姻帳消しへと話しを持って行ったそうだ。
実は、弥依彦の部屋を訪ねたあたりから、翠は自分の身体の不調を感じていた。
前日にチカータを食べていたとはいえ、量が足りていなかったためだ。
それでもまだあの時は、気を張っていれば平常を保てる程度ではあった。
――――ハヤセミと弥依彦の愚かな発言が無ければ。
激しく憤り気が高ぶった翠は、それによって毒の周りを良くしてしまった。
なんとか形だけの言霊を唱えたのは良いものの、そのままぶっ倒れてしまい、そして今に至る。
それが三つ目、と言うわけであった。
「えーと、と言う事は……」
翠が順を追って説明してくれたため、なんとか話しを理解したカヤは、ついでに違う事も理解し始めていた。
「私は二人の計画の邪魔をしただけ……?」
顔を見合わせた翠とタケルは、何とも言えない表情をした。
「……まあ、そうとも言うな」
率直に答えたのはタケルだ。
カヤは、あまりの眩暈にその場に崩れ落ちた。
「そ、そんな……」
こんにも嬉しくない奇跡が、あっても良いのだろうか?
良かれと思ってした事が、ことごとく二人の企てを妨害していたとは。
違う意味で涙が出そうになってきたカヤに、タケルが声を掛けた。
「おい娘。傷心している所すまないが、次はそなたが説明をする番だ。何故、弥依彦の部屋に居た?」
「……もしや弥依彦に無理やり連れ込まれたのではあるまいな」
大変に低い声で言ったのは翠だ。
激高した時の声色と似たものを感じる。