【完】絶えうるなら、琥珀の隙間
「あの花は希少だから今屋敷に無いんだよ。丁度、取り寄せてる最中」
「あ……そっか、そうですよね……すいません」
興奮するあまり忘れていた。
確かに雪中花が珍しい花だとは翠も言っていた。
あまり知られていないからこそ、毒殺用の手段として使用出来るのだとも。
カヤが恥じ入って口を噤むと、クシニナは顔を曇らせた。
「ただね、この雨で花がなかなか届かないんだ……川の橋が崩れちまったらしくてね。あと数日は掛かるだろうね」
そんな、と絶望しかけたが、ふと思い当たる。
春の祭事の前日、ユタと二人で雪中花を森に取りに行ったではないか。
「クシニナさん!すぐに雪中花を取って来るので、戻ってきたら煎じてください!」
「え!?カヤ!?何処へ行くのさっ……」
クシニナに呼び止められた時には、カヤは既に走り出していた。
そのまま風のように廊下を走り抜け、タケルの部屋へと全速力で向かった。
「タケル様!失礼致します!」
返事も待たずに部屋に転がり込んだカヤに、タケルは仰天したように腰を浮かせた。
「どうしたと言うのだ!」
部屋にはミナトも居た。
二人の前には大きな見取り図のようなものが置かれている。
恐らく建設予定の水路のものだろう。
「大変申し訳ないのですが、しばし翠様のお傍に付いていて頂けませんでしょう?森へ雪中花を取りに行きたいのです!クシニナさんが取り寄せてくれているそうなのですが、この雨で届く見込みが付いていないそうなのです!」
言いたい事を一気にまくしたてた。
タケルはすぐに現状を把握してくれたようだったが、戸惑ったように言う。
「そ、そなた一人でか?他の者に取りに行かせてはいけぬのか?雨も降っておるし、危なかろう」
「雪中花が咲いていた大体の場所を把握している私が行った方が早いかと。日が落ちる前には必ず戻ります。どうかお許しを」
必死に頼み込むと、タケルは渋い顔をしながらも頷いてくれた。
「そう言うことならば……承知した。翠様には私が付いていよう。だが夕刻になるまでには必ず戻るのだぞ」
「ありがとうございます!」
勢いよく頭を下げ、これまた勢いよく部屋を飛び出した。
カヤはそのまま屋敷の門を潜り、村へ出た。
大きな雨粒が降りしきる村は、いつもより人が少なかった。
閑散とした通りを、足元の水を跳ねさせながらカヤは息を切らせて走る。
(雪中花があれば、翠が楽になるっ……)
きっと以前あの花を見つけた場所の近くを探せば、あるはずだ。
いや、見つからなくても死にもの狂いで探そう。
そう心に誓った時、ふと人通りの少ない往来に佇む、数人の男達の姿が目に飛び込んできた。
(え?)
一瞬だけカヤの意識がそちらに逸れた。
違和感を感じたのだ。
それはきっと、全員の眼がカヤの姿を追っていたからだった。
明らかに見覚えの無い男達である。
屋敷の者でも無さそうだ。
「あ……そっか、そうですよね……すいません」
興奮するあまり忘れていた。
確かに雪中花が珍しい花だとは翠も言っていた。
あまり知られていないからこそ、毒殺用の手段として使用出来るのだとも。
カヤが恥じ入って口を噤むと、クシニナは顔を曇らせた。
「ただね、この雨で花がなかなか届かないんだ……川の橋が崩れちまったらしくてね。あと数日は掛かるだろうね」
そんな、と絶望しかけたが、ふと思い当たる。
春の祭事の前日、ユタと二人で雪中花を森に取りに行ったではないか。
「クシニナさん!すぐに雪中花を取って来るので、戻ってきたら煎じてください!」
「え!?カヤ!?何処へ行くのさっ……」
クシニナに呼び止められた時には、カヤは既に走り出していた。
そのまま風のように廊下を走り抜け、タケルの部屋へと全速力で向かった。
「タケル様!失礼致します!」
返事も待たずに部屋に転がり込んだカヤに、タケルは仰天したように腰を浮かせた。
「どうしたと言うのだ!」
部屋にはミナトも居た。
二人の前には大きな見取り図のようなものが置かれている。
恐らく建設予定の水路のものだろう。
「大変申し訳ないのですが、しばし翠様のお傍に付いていて頂けませんでしょう?森へ雪中花を取りに行きたいのです!クシニナさんが取り寄せてくれているそうなのですが、この雨で届く見込みが付いていないそうなのです!」
言いたい事を一気にまくしたてた。
タケルはすぐに現状を把握してくれたようだったが、戸惑ったように言う。
「そ、そなた一人でか?他の者に取りに行かせてはいけぬのか?雨も降っておるし、危なかろう」
「雪中花が咲いていた大体の場所を把握している私が行った方が早いかと。日が落ちる前には必ず戻ります。どうかお許しを」
必死に頼み込むと、タケルは渋い顔をしながらも頷いてくれた。
「そう言うことならば……承知した。翠様には私が付いていよう。だが夕刻になるまでには必ず戻るのだぞ」
「ありがとうございます!」
勢いよく頭を下げ、これまた勢いよく部屋を飛び出した。
カヤはそのまま屋敷の門を潜り、村へ出た。
大きな雨粒が降りしきる村は、いつもより人が少なかった。
閑散とした通りを、足元の水を跳ねさせながらカヤは息を切らせて走る。
(雪中花があれば、翠が楽になるっ……)
きっと以前あの花を見つけた場所の近くを探せば、あるはずだ。
いや、見つからなくても死にもの狂いで探そう。
そう心に誓った時、ふと人通りの少ない往来に佇む、数人の男達の姿が目に飛び込んできた。
(え?)
一瞬だけカヤの意識がそちらに逸れた。
違和感を感じたのだ。
それはきっと、全員の眼がカヤの姿を追っていたからだった。
明らかに見覚えの無い男達である。
屋敷の者でも無さそうだ。