【完】絶えうるなら、琥珀の隙間
"誰がお前を落とせるか賭け事してる奴らが居るらしい"

数日前、ミナトに言われた事が頭をよぎった。


(いや、まさか村の人間がそんな馬鹿げた遊戯はしないだろう)

そうは思いながらもカヤは走りながら肩越しに後ろを見やる。
男達は、未だこちらを見つめていた。

なんともぞっとしない。
カヤは一刻も早く男達の視界から消え失せようと、足を速めて森へ急いだ。

男達はカヤを追ってくる事はせず、ただただ不気味にカヤを見つめ続けていた。



そして、その蹄の音が聞こえてきたのは、森の入口へ差し掛かった時だった。

「……ん?」

カヤは立ち止まった。
ドカッ、ドカッと激しい音が雨音を縫ってカヤの鼓膜へ届いたのだ。

振り返ると、雨で霞む景色の中に黄白色が見えた。

「リン……?」

眼を凝らしてみる。見間違いでは無い。
以前その背にカヤを乗せてくれた、綺麗な馬だった。

「トロイくせに足速いんだよ、お前!」

そしてその背には当然のように主の姿が。

「ミナト!どうしたの!?」

カヤに追いついたミナトは、リンの歩みを止めさせるとぶっきら棒に言った。

「どうしたもこうしたもあるか。どうせお前、日暮れても探し続けるんだろ。野たれ死なねえように来てやったんだよ」

「え?でも大丈夫なの?忙しくないの?」

「タケル様のお許しは貰ってる。さっさと乗れ」

思わぬ助っ人にカヤは口元を緩ませた。

なんとも頼もしい。
一人より二人の方が早く花を見つけられるはずだ。

「ありがとう!」

ミナトの手を借りてリンの背に跨り、二人はそのまま森へと入った。


「どのあたりだ?」

森の中をゆっくりめの速度で闊歩しながら、ミナトが後ろからそう問いかけて来た。

「もう少し奥かなあ」

「……良く知んねえけど、あの花って貴重なんだろ。そう簡単に生えてんのかよ」

「どうだろう……ユタと探した時は半日くらい掛かったかも」

カヤの言葉に、ミナトは「げ」と声を漏らした。

「そんなもん良くこの雨の中探しに来ようと思ったな、お前」

「そりゃ翠様に早く元気になって欲しいから……でも、ミナトまで付き合わせちゃってごめんなさい……」

確かに来てくれたのは嬉しいが、翠が寝込んでいるせいで、ミナトは普段よりも絶対に忙しいはずだ。

申し訳無い気持ちになりながら謝ると、後ろのミナトが鼻で笑ったのが聞こえた。
不思議に思ったカヤは振り返る。

「何笑って……って、いった!」

と同時、ミナトに額を指で弾かれた。
本気の力では無いだろうが、痛いっちゃ痛い。

「何すんの!」

「お前、体調悪いだろ。さては看病疲れか」

「……はい?」

「お前がしおらしいとか気持ち悪いんだよ」

ぐっと言葉に詰まる。
しまった。態度に出していないつもりだったのに、無意識に出ていてしまったのだろうか。

カヤは、ぷいっと前を向き直った。

「悪くないよ。最近翠様を見習ってお淑やかにしてる最中なんです」

つんけんしてそう言うと、ミナトが「ふーん」と疑わし気な声を出した。

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