【完】絶えうるなら、琥珀の隙間
「……ま、良いけど。さっさと見つけて、さっさと帰るぞ。んでさっさと寝ろ、馬鹿」
乱暴な口調と言葉の優しさが噛み合っていない。
カヤは小さく笑った。
ミナトらしい分かりにくい優しさがくすぐったくて、そして嬉しかった。
「うん、ありがと……あ、多分ここを左だと思う」
茂みの中を指さすと、ミナトはリンの歩をそちらの方に進めた。
ガサガサと背の高い草を掻き分けながら進むと、どこか見覚えのある景色になってきた。
以前ユタと雪中花を見つけた場所に近い。
カヤは興奮気味に後ろのミナトを振り返った。
「前はこの辺りに咲いてたの!あの時は全部摘んじゃったけど、近くにも咲いてるかもっ」
「それなら歩いて探した方が良さげだな。降りるぞ」
二人はリンから降りて、辺りを見回した。
当然だが、都合よく雪中花が咲いているのは見止められない。
「ミナト、手分けして探そう!私こっちの方探してみる!」
そう言って走り出したカヤを、ミナトの声が追ってきた。
「あんま奥に行くなよ!崖がある!」
「分かった!」
ミナトに手を振り、カヤは更に森の奥へと足を踏み入れた。
(どこだ……どこだ……お願い、見つかって)
必死に左右に視線を向けながら、カヤは森を分け入っていく。
草の密度が濃くなってきて、足元はいつの間にか苔むした地面になっていた。
あちこちから顔を覗かせている木の根は雨のせいで滑りやすくなっていて、カヤは何度も転びそうになった。
サー……と雨が葉を打つ音、カヤの息遣いと地を踏む音以外は何も聞こえない。
一面が透明と緑色に彩られた世界をカヤはがむしゃらに進んだ。
(早く……早く見つけなきゃ)
こうしている間にも、翠は苦しんでいる。
一刻も早く安寧を届けたくてどうしようも無かった。
どうかいつもの翠に会いたい。
笑いかけてくれなくたって良い。ただただ、苦痛に歪んだ顔をもう見たくなかった。
「……翠……」
ぽつりと名を落とし、汗とも雨とも付かない雫を顎から拭った時だった。
「っひ、」
カヤはビクッと足を止めた。
ガラガラ……とつま先の地面が小さく削れ、遥か下へと落ちていく。
気が付けば崖沿いにまで来ていた。
危なかった。このまま進んでいれば真っ逆さまだった。
カヤは慎重に崖下を覗いてみた。
べらぼうに高いわけでも無いが、落ちれば良くて大怪我、悪くて死だろう。
この雨で足元の地盤も緩んでいるはずだ。
長居は無用、と引き返しかけたカヤの眼に―――――唐突にその白が飛び込んできた。
どくん、と心臓が打ち震える。
カヤの右手側、五歩先程の崖沿いに、雪中花が凛と咲いていた。
乱暴な口調と言葉の優しさが噛み合っていない。
カヤは小さく笑った。
ミナトらしい分かりにくい優しさがくすぐったくて、そして嬉しかった。
「うん、ありがと……あ、多分ここを左だと思う」
茂みの中を指さすと、ミナトはリンの歩をそちらの方に進めた。
ガサガサと背の高い草を掻き分けながら進むと、どこか見覚えのある景色になってきた。
以前ユタと雪中花を見つけた場所に近い。
カヤは興奮気味に後ろのミナトを振り返った。
「前はこの辺りに咲いてたの!あの時は全部摘んじゃったけど、近くにも咲いてるかもっ」
「それなら歩いて探した方が良さげだな。降りるぞ」
二人はリンから降りて、辺りを見回した。
当然だが、都合よく雪中花が咲いているのは見止められない。
「ミナト、手分けして探そう!私こっちの方探してみる!」
そう言って走り出したカヤを、ミナトの声が追ってきた。
「あんま奥に行くなよ!崖がある!」
「分かった!」
ミナトに手を振り、カヤは更に森の奥へと足を踏み入れた。
(どこだ……どこだ……お願い、見つかって)
必死に左右に視線を向けながら、カヤは森を分け入っていく。
草の密度が濃くなってきて、足元はいつの間にか苔むした地面になっていた。
あちこちから顔を覗かせている木の根は雨のせいで滑りやすくなっていて、カヤは何度も転びそうになった。
サー……と雨が葉を打つ音、カヤの息遣いと地を踏む音以外は何も聞こえない。
一面が透明と緑色に彩られた世界をカヤはがむしゃらに進んだ。
(早く……早く見つけなきゃ)
こうしている間にも、翠は苦しんでいる。
一刻も早く安寧を届けたくてどうしようも無かった。
どうかいつもの翠に会いたい。
笑いかけてくれなくたって良い。ただただ、苦痛に歪んだ顔をもう見たくなかった。
「……翠……」
ぽつりと名を落とし、汗とも雨とも付かない雫を顎から拭った時だった。
「っひ、」
カヤはビクッと足を止めた。
ガラガラ……とつま先の地面が小さく削れ、遥か下へと落ちていく。
気が付けば崖沿いにまで来ていた。
危なかった。このまま進んでいれば真っ逆さまだった。
カヤは慎重に崖下を覗いてみた。
べらぼうに高いわけでも無いが、落ちれば良くて大怪我、悪くて死だろう。
この雨で足元の地盤も緩んでいるはずだ。
長居は無用、と引き返しかけたカヤの眼に―――――唐突にその白が飛び込んできた。
どくん、と心臓が打ち震える。
カヤの右手側、五歩先程の崖沿いに、雪中花が凛と咲いていた。