【完】絶えうるなら、琥珀の隙間
混乱しながらヤガミに問えば、彼はまるで伺うように、ちらりとミナトを見やった。
なに?なんだ?
その視線は何だって言うんだ。
得体の知れない場の雰囲気に、心がざわざわとし始めていた。
「いえ、あの……眼が……」
「眼が?」
はっきりしないヤガミに、詰め寄る。
「まるで、ミナト様の事を心底憎んでいるような眼だったので……」
観念したように吐かれたその言葉は、カヤの背筋を冷たく這った。
(最低だ、私)
一体どんな醜い眼でミナトを睨んでしまったのか―――――
「おい、もう良いから気にすんな。避けなかった俺が悪い」
言葉を失っていると、そんなミナトの声が聴こえた。
「死にそうなツラしてんじゃねえよ」
べしっ、と強めに後頭部を叩かれ、恐る恐るミナトを見やる。
「……憎んでなんかないよ……?本当に……」
震えそうになる声で言えば、はっ、と小さく笑われた。
「どうだかな。実は日頃の稽古の鬱憤とか溜まってるだろ」
ミナトが、わざと言ってくれているのが分かった。
冗談めいた言葉に、カヤは少し救われた気持ちになる。
「……溜まってないよ、少ししか」
「少しは溜まってるのかよ」
声を上げて笑ったミナトに、冷えていたその場の雰囲気がようやく緩んだ。
「はい、一応これで大丈夫だと思うわ」
ぺしっ、とミナトの腹に湿布薬を貼り付け、ユタはカヤを安心させるかのように笑った。
「大した事無いわ。せいぜい痣が出来るくらいよ」
「ありがとう、ユタ……」
三人は屋敷の医務室に居た。
「大丈夫」だと言い張るミナトを、カヤとヤガミが無理やり引き摺ってきたのだ。
初めて入った医務室は、なんだか独特の匂いがした。
壁の棚にはびっしりと小さな壺が並んでいて、天井からは見たことの無い薬草がぶら下がっている。
どれもこれも干からびている所を見ると、乾燥させているらしい。
医務官の見習いであるユタは、この場所で怪我をした屋敷の人達の治療を行ったり、薬草を取り寄せる作業をしたりするそうだ。
「それにしても、全く情けないわねえ」
ユタの呆れたような言葉に、衣を着終わったミナトが舌打ちした。
「うるせえな」
「剣だけが取り柄なんだから、避けるくらいしなさいよ」
「だけって何だ、だけって」
二人が叩く軽口を聞きながら、カヤはふと考えた。
確かにミナトともあろう人が、何故黙ってカヤの突きを受けたのだろう?
「ねえ、ミナト……?」
おずおずと呼びかければ、ユタにからかわれたせいで不愉快そうな顔が、こちらを向く。
「あん?」
「私が言うのも何だけど、どうして避けなかったの……?ミナトなら避けれたよね……?」
首を傾げて問えば、横からヤガミも口を挟んできた。
「カヤ様の仰る通りでございますよ。まるで石のように固まってしまわれて……一体どうされたのですか?ミナト様らしくも無い」
ヤガミの言う通り、全く持って"らしく"無かった。
答えを求めるように、その場の全員の視線がミナトに向く。
なに?なんだ?
その視線は何だって言うんだ。
得体の知れない場の雰囲気に、心がざわざわとし始めていた。
「いえ、あの……眼が……」
「眼が?」
はっきりしないヤガミに、詰め寄る。
「まるで、ミナト様の事を心底憎んでいるような眼だったので……」
観念したように吐かれたその言葉は、カヤの背筋を冷たく這った。
(最低だ、私)
一体どんな醜い眼でミナトを睨んでしまったのか―――――
「おい、もう良いから気にすんな。避けなかった俺が悪い」
言葉を失っていると、そんなミナトの声が聴こえた。
「死にそうなツラしてんじゃねえよ」
べしっ、と強めに後頭部を叩かれ、恐る恐るミナトを見やる。
「……憎んでなんかないよ……?本当に……」
震えそうになる声で言えば、はっ、と小さく笑われた。
「どうだかな。実は日頃の稽古の鬱憤とか溜まってるだろ」
ミナトが、わざと言ってくれているのが分かった。
冗談めいた言葉に、カヤは少し救われた気持ちになる。
「……溜まってないよ、少ししか」
「少しは溜まってるのかよ」
声を上げて笑ったミナトに、冷えていたその場の雰囲気がようやく緩んだ。
「はい、一応これで大丈夫だと思うわ」
ぺしっ、とミナトの腹に湿布薬を貼り付け、ユタはカヤを安心させるかのように笑った。
「大した事無いわ。せいぜい痣が出来るくらいよ」
「ありがとう、ユタ……」
三人は屋敷の医務室に居た。
「大丈夫」だと言い張るミナトを、カヤとヤガミが無理やり引き摺ってきたのだ。
初めて入った医務室は、なんだか独特の匂いがした。
壁の棚にはびっしりと小さな壺が並んでいて、天井からは見たことの無い薬草がぶら下がっている。
どれもこれも干からびている所を見ると、乾燥させているらしい。
医務官の見習いであるユタは、この場所で怪我をした屋敷の人達の治療を行ったり、薬草を取り寄せる作業をしたりするそうだ。
「それにしても、全く情けないわねえ」
ユタの呆れたような言葉に、衣を着終わったミナトが舌打ちした。
「うるせえな」
「剣だけが取り柄なんだから、避けるくらいしなさいよ」
「だけって何だ、だけって」
二人が叩く軽口を聞きながら、カヤはふと考えた。
確かにミナトともあろう人が、何故黙ってカヤの突きを受けたのだろう?
「ねえ、ミナト……?」
おずおずと呼びかければ、ユタにからかわれたせいで不愉快そうな顔が、こちらを向く。
「あん?」
「私が言うのも何だけど、どうして避けなかったの……?ミナトなら避けれたよね……?」
首を傾げて問えば、横からヤガミも口を挟んできた。
「カヤ様の仰る通りでございますよ。まるで石のように固まってしまわれて……一体どうされたのですか?ミナト様らしくも無い」
ヤガミの言う通り、全く持って"らしく"無かった。
答えを求めるように、その場の全員の視線がミナトに向く。