【完】絶えうるなら、琥珀の隙間
(間違いを起こさないよう……?)

間違いとは、一体なんなんだろう。

翠と子を成す事?

そんなの、気持ちが通じ合ってからだって、一度たりとも望んだ事はなかった。

(わたしは、ただ)

ただ翠と幸福になりたいと、それだけを望んでいただけなのに。


嗚呼、なんて滑稽なのだ。

まだ望んですらいなかった未来は、たった今、一刀両断された。






「俺はカヤ以外の者と子を成すつもりは無い!」

聴くと言う行為を手放していた鼓膜に、そんな翠の言葉が響いてきた。

呆然と座り込んでいたカヤは、のろのろと顔を上げる。

二人は互いに激しい憤りの表情を浮かべたまま対峙していた。

しばらくじりじりと睨み合っていた二人だったが、やがて先に口を開いたのはタケルだった。

「貴方様がいかに抗おうと、道は一つしか残っていません。貴方様は将来的に、カヤ以外の女と子を成すのです」

「っ人の話を……」

「良いですか、翠様!」

言い返そうとした翠の言葉を勢いよく遮り、そしてタケルはきっぱりと言ったのだった。


「貴方様の意志は一切関係ございません。例えそれがいくら強かろうとです」



"―――――意志のあるところに、道は開く"

だが、開いた道が果たして楽園に続くのか。
それは誰にも分からないのかもしれない。














翠は以前、言葉の事を『自分を生きやすくするための、最も簡単で有効な手段』と言っていた。

それに間違いは無いだろう。

しかし自分の生きやすさのために、他人の生きやすさを犠牲にしては――――そこにあるのは、もう幸福には成り得ない幸福だと思うのだ。

果てしなく空虚な、何か。


(だったら要らない)

そんなもの望みたくもない。






「……どうした、それ」

ミナトが愕然としたように言った。


(翠と同じ反応してるなあ)

二人のそれが思いの他似ていたため、カヤは小さく笑ってしまった。


屋敷内の屯所は、今日も駐在している兵達で混み合っている。
その入口で、ミナトとカヤの二人は向かい合っていた。

丁度、翠に稽古の空き時間を貰ったので、いつものようにミナトに声を掛けにきた所だ。

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