【完】絶えうるなら、琥珀の隙間
「切ったの」
「見りゃ分かるけど……ちょっと短すぎねえか?」
ミナトが驚くのも無理は無かった。
二日前にかなり短く髪を切ってから、ミナトに会うのは初めてなのだ。
隣国で翠にバッサリ切られた髪は、最近ようやく肩くらいにまで伸びていた。
しかしカヤは、あの時よりも更に短く髪を切り落としたのだ。
おかげで、自分で言うのもなんだが、まるで男の子みたいだった。
「うん、でもやっぱり短いと楽だね。頭が軽いよ」
「あははー」と笑い、カヤは未だに衝撃を顔に残しているミナトを無視して本題に入った。
「ところで稽古に付き合って欲しいんだけど、今日空いてるかなあ?」
「あー……悪い、今日は厳しい。屋敷の巡回に人手が割かれててな」
ミナトが申し訳なさそうに頭を掻いた。
最近ミナト達は、かなりの頻度で屋敷の巡回をしていた。
なぜなら屋敷内での小競り合いが頻発しているからだ。
翠の力が無くなったと言う話は、あっという間に屋敷中に広まった。
そしてその話題は、高官達だけではなく、なんと屋敷中の人間をも二分割させた。
『翠に治世を続投して欲しい者』と『翠の退任を望む者』の二つに、だ。
まあそこまでは何となく予想出来てはいた。
きっと翠も同じだろう。
だが、事態はそれだけでは終わらなかった。
唐突な神官の力の消失、と言う前代未聞な出来事が、血気盛んな若者達を焚きつけたらしい。
初めは対立する者達があちこちで意見をぶつけ合っていただけなのだが、それは日を追うごとに白熱していき、遂に数日前に殴り合いに発展してしまったのだ。
それを皮切りにしてか、この広い屋敷の何処かで、一日に四、五回は何かしらの揉め事が発生し、そして必ず一人は怪我人が出るような事態となってしまっていた。
そのためミナト達屋敷の兵は、その小競り合いを見つけ次第止めるため、小まめに巡回をするようになったと言う訳だ。
「そっか、分かったよ。じゃあ今日は一人で稽古するね」
そんな事情を知っているため、カヤはすぐさま笑って頷いた。
「悪いな」
「いえいえ、全く……」
「―――――おい、退けよ」
背後からいきなりそんな言葉が飛んできたため、カヤは振り向いた。
そこには屋敷の兵が二人、しかめっ面で立っていた。
入口で立ち話していたため、この人達の道を塞いでしまっていたらしい。
名前は全く知らないが、顔だけ見た事がある。
確かミナトとは違う所属のはずだ。
現にカヤだけでなくミナトにも、どこか嫌悪的な視線を送っている。
「あ、すいません」
慌てて退くと、すれ違いざまに小さく舌打ちをされた。
「……末恐ろしいよな、ヘラヘラ笑っちゃってさ」
「……あいつが厄災持ち込んだに決まってるのにな」
そんな冷たい会話が耳に届く。
ああ、またか、とカヤはすぐに鼓膜を閉ざした。
「見りゃ分かるけど……ちょっと短すぎねえか?」
ミナトが驚くのも無理は無かった。
二日前にかなり短く髪を切ってから、ミナトに会うのは初めてなのだ。
隣国で翠にバッサリ切られた髪は、最近ようやく肩くらいにまで伸びていた。
しかしカヤは、あの時よりも更に短く髪を切り落としたのだ。
おかげで、自分で言うのもなんだが、まるで男の子みたいだった。
「うん、でもやっぱり短いと楽だね。頭が軽いよ」
「あははー」と笑い、カヤは未だに衝撃を顔に残しているミナトを無視して本題に入った。
「ところで稽古に付き合って欲しいんだけど、今日空いてるかなあ?」
「あー……悪い、今日は厳しい。屋敷の巡回に人手が割かれててな」
ミナトが申し訳なさそうに頭を掻いた。
最近ミナト達は、かなりの頻度で屋敷の巡回をしていた。
なぜなら屋敷内での小競り合いが頻発しているからだ。
翠の力が無くなったと言う話は、あっという間に屋敷中に広まった。
そしてその話題は、高官達だけではなく、なんと屋敷中の人間をも二分割させた。
『翠に治世を続投して欲しい者』と『翠の退任を望む者』の二つに、だ。
まあそこまでは何となく予想出来てはいた。
きっと翠も同じだろう。
だが、事態はそれだけでは終わらなかった。
唐突な神官の力の消失、と言う前代未聞な出来事が、血気盛んな若者達を焚きつけたらしい。
初めは対立する者達があちこちで意見をぶつけ合っていただけなのだが、それは日を追うごとに白熱していき、遂に数日前に殴り合いに発展してしまったのだ。
それを皮切りにしてか、この広い屋敷の何処かで、一日に四、五回は何かしらの揉め事が発生し、そして必ず一人は怪我人が出るような事態となってしまっていた。
そのためミナト達屋敷の兵は、その小競り合いを見つけ次第止めるため、小まめに巡回をするようになったと言う訳だ。
「そっか、分かったよ。じゃあ今日は一人で稽古するね」
そんな事情を知っているため、カヤはすぐさま笑って頷いた。
「悪いな」
「いえいえ、全く……」
「―――――おい、退けよ」
背後からいきなりそんな言葉が飛んできたため、カヤは振り向いた。
そこには屋敷の兵が二人、しかめっ面で立っていた。
入口で立ち話していたため、この人達の道を塞いでしまっていたらしい。
名前は全く知らないが、顔だけ見た事がある。
確かミナトとは違う所属のはずだ。
現にカヤだけでなくミナトにも、どこか嫌悪的な視線を送っている。
「あ、すいません」
慌てて退くと、すれ違いざまに小さく舌打ちをされた。
「……末恐ろしいよな、ヘラヘラ笑っちゃってさ」
「……あいつが厄災持ち込んだに決まってるのにな」
そんな冷たい会話が耳に届く。
ああ、またか、とカヤはすぐに鼓膜を閉ざした。