【完】絶えうるなら、琥珀の隙間
(……しんどい?)

その言葉は驚く程、すとん、と腹に落ちた。

そしてカヤは突然、自分が酷く疲れている事に気が付いた。

そうだ、疲れている。
もう、嘘をつくと言う行為に疲れきっていた。



「――――……ミナト様ー!」

遠くからそんな声が聞こえてきたと同時、ミナトの指がカヤから離れた。

二人が声のした方を見やると、向うからヤガミが歩いてくる。

その隣には見知らぬ女性と、そしてその女性に手を引かれて、よちよちと歩く小さな子供の姿が。

「あれって……?」

「ヤガミの嫁と息子だな」

そう教えてもらった時、丁度三人がカヤ達の元へ辿り着いた。

初めて会うヤガミの奥方はとても優しそうな女性だった。
奥方はカヤとミナトを見るなり、深々と頭を下げる。

「お久しぶりでございます、ミナト様……と、貴女がカヤ様ですね。いつも主人がお世話になっております。私、サヨと申します」

「は、初めまして!こちらこそヤガミさんにはいつもお世話になっていますっ」

慌ててカヤも頭を下げた時、サヨの隣に居た子供が、とてとてと近づいてきた。

「みなとー」

舌足らずに名前を呼んで右足に抱き着いてきたその子を、ミナトは軽々と持ち上げた。

「元気かトバリ。お前、会うたび重くなってくなあ」

眼尻を緩めて笑いながら、ミナトはトバリの頭を優しく撫でた。
トバリの懐き具合を見るに、どうやら二人は良く顔を合わせているらしい。


「今日はどうして屋敷に?」

小さな掌でペタペタと頬っぺたを触られながら、ミナトがヤガミに尋ねた。

「丁度妻が仕事で近くまで来ていたので、屋敷の中を案内していたのです」

「ああ、そう言う事か」

納得したようにミナトが頷く。


「何のお仕事をされてるんですか?」

気になったカヤが尋ねると、サヨは背中に担いでいた袋を下ろして、中から更に小さな袋を二つ取り出した。

「カヤ様、両手を出してみてください」

不思議に思いながら両手を差し出すと、サヨはその袋を逆さまにした。

すると幾つもの色とりどりの石が、コロコロと掌に転がり出てきた。

なんだかゴツゴツとしていて、うっかり落としてしまったら、そこらへんに落ちているただの石と混ざり合ってしまいそうだ。

「これは宝石の原石です。ここから削ったり磨いたりを繰り返すと、こんな風になるんですよ」

次にサヨはもう一つの袋を逆さまにした。

出てきたのは、先ほどの石ころのようなものでは無く、つるりと滑らかな輝きを放つ石だった。

これこそ正にカヤが知っている宝石だ。

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