【完】絶えうるなら、琥珀の隙間
「凄い!全然違いますね!とっても綺麗です!」

「ふふ。ありがとうございます。私の家は祖父の代からずっとこれを生業にしておりまして、この磨いた石を装身具の作り手などに売って生計を立てているんです」

「あ、だから屋敷の近くまでいらっしゃってたんですね」

カヤの言葉に「その通りです」とサヨが頷いた。

数日前から、秋の祭事に向けて何人もの行商人がこの村を訪れ、屋敷の近くで買い付けを行っていた。

その中には恐らく装身具の作り手も多く居るだろう。
サヨはそう言った人達に向けて磨いた原石を売っているのだ。


「凄い凄い」と連発しながら石を眺めていたカヤは、ふと色とりどりの宝石の中に、見覚えのあるものを見つけた。

「あれ……これって……」

カヤは一粒の黄色い宝石を摘まんで、空にかざしてみた。
太陽の光を凝縮させたような、温かな色のその宝石を。

「ああ、それは琥珀ですね」

サヨが言った。

知っている。
それはカヤにとって唯一知っている宝石だった。


かつてミズノエが"カヤの瞳みたいだから"と、その宝石の名で呼んでくれた。

そして、その宝石が付いた素敵な髪飾を贈ってくれた。

――――この国に来てすぐ、娘の病気を治すためカヤの髪を狙った男達に、代わりの品として渡してしまう事になってしまったが。



「どんだけ見てんだよ。欲しいのか?」

あんまりにも凝視していたせいで、ミナトにそう笑われた。

「違いますー。綺麗だから見惚れてだけ。サヨさん、見せて下さってありがとうございました」

お礼を言ってカヤはサヨに宝石を返した。


「それにしても、これだけ綺麗なら、きっとすぐに売れますね」

カヤがそう言うと、宝石を袋に仕舞っていたサヨは、なぜだから表情を曇らせた。

「そうだと有り難いのですが……残念ながら今年はあまり売れ行きが良くなくって」

眉を下げて笑うサヨに、ヤガミも困ったような表情を浮かべた。

「恐らく、秋の祭事が中止になるかもしれないからでしょうね。石を大量に買い付けても祭事で売れない可能性もあるので、行商人達もなかなか買ってくれないんです」

「年に二回の書き入れ時だから、このままだと厳しいわねえ……」

「そうだな……」

サヨもヤガミも、揃って溜息を付いた。


翠は未だに祭事を催すか催さないかを決めかねていた。

祭事を行う根本的な理由は、神へ実りの感謝を行う事だ。

けれど翠の力が無くなってしまった今、例年のように神へ祈る事が出来ない。

祭事が無ければ、サヨのように困る人達が大勢居る。

しかし、本来の目的である『祈り』が無い祭事を開くのは如何なものか―――――翠はそんな葛藤に悩まされているようだった。


暗い気持ちで二人を見つめていたカヤは、ふと腕に何かの感触を感じた。

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