【完】絶えうるなら、琥珀の隙間
「……だめ?」

窺うように尋ねると、翠は何よりも柔和に笑う。

「良いに決まってる」

そうして軽い口付けを落として、今度は翠がカヤに問うた。

「俺も、カヤを暴いても良いか?」

もちろんだよ、と答える。


(駄目なわけがない)

それ以上に嬉しいことが、この世にあるはずがなかった。
















「…………」

「…………」

「……えっと……解いても良いか?」

「う、うん……どうぞ」

ギクシャクと頷けば、翠の指が遠慮がちに伸びてくる。

カヤは身体中を強張らせながら、翠の指が己の腰紐を解いていくのを見つめていた。


パチパチと炎が爆ぜる音と、しゅるしゅると腰紐が解かれていく音、そして二つの静かな息遣い。

焚き木の柔らかな炎が、向かい合って座る二人の影をゆらゆらと揺らしている。

威勢良く返事したのは良いものの、カヤはガチガチに緊張しまくっていた。

だってまさか、こんな展開なるとは屋敷を出る時は一切予想していなかったのだ。

暴きたい、だなんて良く言えたものだ。
全くもって、気の高ぶりとは恐ろしい。


ぐるぐるとそんな事を考えていると、しゅっ、と最期の音を立てて、衣を掛け合わせていた腰紐がカヤから離れて行く。

春の祭事の時に、ユタとナツナに貰った大切な腰紐だ。

それを知っている翠は、丁寧にそれを畳んで隣に置いてくれた。

そして再び伸びてきた指は、カヤの両方の襟元をそっと掴んだ。

少し開いた襟元の隙間から冷たい夜風が入り込んでくる。
ふるりと身震いしたカヤに、翠が気遣わし気に眉を下げた。

「あ……ごめん。寒いよな」

翠の指が離れて行ってしまいそうで、カヤは慌てて首を振った。

「全く大丈夫です!ご心配なさらず!」

気合いを入れて返事したが、もしかしたら気合いを入れ過ぎたのかもしれない。

翠が更に心配そうな表情を浮かべてしまった。


「あ、いや、えっと……本当に大丈夫だから、あの……ぬ、脱がせて……下さい……」

焦ったカヤは、何とも恥ずかしい事を口走ってしまった。

こんな暗闇なのに、自分の顔がとんでもなく真っ赤になったのが分かった。

「大胆だな」

そしてやっぱりからかわれた。

「ち、ちがっ……ひゃ!」

涙目で睨み付けた途端、翠の指がカヤの肩から衣をするりと落とした。

咄嗟に己を抱き締めるようにして胸元を隠すと、翠が苦笑いを零す。

「カヤ。手」

しっかりと身体に巻き付くカヤの手首を掴み、柔く退かそうとしてくる翠。

「でも……はずかしい」

「今からもっと恥ずかしい事するのにか」

火照っていた頰が、更にカッと熱を帯びる。
カヤは口籠もり、しゅるしゅると俯くしかなかった。

緊張で胸が張り裂けてしまいそうだ。
けれど、翠の指はカヤの手首を離れない。

「カヤ」

優しく呼ばれ、ようやく観念したカヤは、やがて腕の力を抜いた。

頑なに動かさなかった腕は退かされ、遂に隠すものが無くなった胸元が晒される。

羞恥で思いっきり左下に視線を落としながら、視界の端で翠がこちらを見つめているのを感じていた。


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