【完】絶えうるなら、琥珀の隙間
「相模殿、もう一度申されてみよ!私達がなんだと!?」
「何度でも言いましょう!愚弄していると申したのだ!」
「タケル様っ……落ち着いて下さい!相模殿もどうかお下がりを!」
「「退け!」」
ミナトが間に割って入るが、タケルも相模も息の合った動作で、ミナトを同時に押しのけた。
「これこれ、止めなされ!」
「お二人とも冷静になるのだ!」
他の高官達も二人を止めようとするが、いかんせんお年を召した方々だ。
ミナトのような腕力も無いため、ほとんど効果は無かった。
部屋の中は今や阿鼻叫喚としていた。
二人の怒鳴り合う声、そんな二人をどうにか引き裂こうとするミナトと数人の高官達、そして相模に同調してタケルに野次を飛ばす高官達―――――
ざわめかしい騒音の中、一際大きな相模とタケルの声が鳴り響いた。
「貴女方は治世を遊戯か何かと勘違いされていらっしゃる!これ以上、民を愚弄されるな!」
「こ、のっ……私だけならともかく翠様をも馬鹿にしおってっ……!赦せぬ!」
わなわなと震えるタケルの右手が、遂に剣に掛かった。
(いけない)
呆然としていたカヤが我に返った時だった。
「全員今すぐ黙れッ―――――!」
混沌とした空気を、真っ直ぐな声が切り裂いた。
恐らくその場の全員が、弾かれたようにその声の主を見た。
翠はいつのまにか立ち上がっていて、その左手は彼の黒髪を束にするように握り締め、そしてその右手には見慣れぬ短剣が――――――
「翠様……!」
タケルが叫んだ時、翠の手は迷いなく短剣を振り下ろしていた。
――――絹の如く美しい黒髪を、叩き斬るように。
あ、と思った時にはもう終わっていた。
気が付けば翠の黒髪は、その左手の中で命を失ったかのように項垂れていた。
しん、とした静寂が耳を突く。
あんなにも騒々しかった部屋の中は、嘘のように静まり返った。
「す、翠様……一体何を……?」
思いもよらない翠の行動に、タケルの怒りは一瞬で吹き飛んだようだった。
相模や、他の高官達も、呆気にとられて翠を見つめている。
それはカヤも全く同じだった。
見事に開いた口が塞がらなかった。
全く持ってタケルの言う通りだ。一体全体、翠は何をしていると言うのだ。
「ようやく静かになったな」
そんな中、ただ一人ニッコリと微笑んだ翠は、いつも通りだった。
首元から下の髪が忽然と消えてしまった以外は、だが。
「では、そろそろ私の話を聴いてはくれまいだろうか」
その言葉を聞いて気が付いた。
翠は、その場の全員を黙らせ、自分の話に耳を傾けさせるためにこんな事をしたのだ。
「何度でも言いましょう!愚弄していると申したのだ!」
「タケル様っ……落ち着いて下さい!相模殿もどうかお下がりを!」
「「退け!」」
ミナトが間に割って入るが、タケルも相模も息の合った動作で、ミナトを同時に押しのけた。
「これこれ、止めなされ!」
「お二人とも冷静になるのだ!」
他の高官達も二人を止めようとするが、いかんせんお年を召した方々だ。
ミナトのような腕力も無いため、ほとんど効果は無かった。
部屋の中は今や阿鼻叫喚としていた。
二人の怒鳴り合う声、そんな二人をどうにか引き裂こうとするミナトと数人の高官達、そして相模に同調してタケルに野次を飛ばす高官達―――――
ざわめかしい騒音の中、一際大きな相模とタケルの声が鳴り響いた。
「貴女方は治世を遊戯か何かと勘違いされていらっしゃる!これ以上、民を愚弄されるな!」
「こ、のっ……私だけならともかく翠様をも馬鹿にしおってっ……!赦せぬ!」
わなわなと震えるタケルの右手が、遂に剣に掛かった。
(いけない)
呆然としていたカヤが我に返った時だった。
「全員今すぐ黙れッ―――――!」
混沌とした空気を、真っ直ぐな声が切り裂いた。
恐らくその場の全員が、弾かれたようにその声の主を見た。
翠はいつのまにか立ち上がっていて、その左手は彼の黒髪を束にするように握り締め、そしてその右手には見慣れぬ短剣が――――――
「翠様……!」
タケルが叫んだ時、翠の手は迷いなく短剣を振り下ろしていた。
――――絹の如く美しい黒髪を、叩き斬るように。
あ、と思った時にはもう終わっていた。
気が付けば翠の黒髪は、その左手の中で命を失ったかのように項垂れていた。
しん、とした静寂が耳を突く。
あんなにも騒々しかった部屋の中は、嘘のように静まり返った。
「す、翠様……一体何を……?」
思いもよらない翠の行動に、タケルの怒りは一瞬で吹き飛んだようだった。
相模や、他の高官達も、呆気にとられて翠を見つめている。
それはカヤも全く同じだった。
見事に開いた口が塞がらなかった。
全く持ってタケルの言う通りだ。一体全体、翠は何をしていると言うのだ。
「ようやく静かになったな」
そんな中、ただ一人ニッコリと微笑んだ翠は、いつも通りだった。
首元から下の髪が忽然と消えてしまった以外は、だが。
「では、そろそろ私の話を聴いてはくれまいだろうか」
その言葉を聞いて気が付いた。
翠は、その場の全員を黙らせ、自分の話に耳を傾けさせるためにこんな事をしたのだ。