【完】絶えうるなら、琥珀の隙間
去り際にミナトはこちらを振り返り、ナツナに向かって叫んだ。

「おい、ナツナ!分かってんだろーな!?」

「分かってますよー、リンちゃんに糞をくれてありがとうってちゃんとお礼しておきますー」

「ちっげーよ阿呆!」と言いながら、ミナトは全速力で走り去っていく。

やがてミナトはタケルの背中に追いつき、そして二人で並んで屋敷の方へと歩いて行った。

邪魔者が去っていってくれて安堵の溜息を着いていると、

「さあ、カヤちゃん。ありがたく頂いていきましょう」

そう言ってナツナがニコニコとした表情で桶を手に取った。

「あ……うん」

なんとなく、2人の力関係が見えた気がした。




その後、ナツナはあの森で、カヤに土地の耕し方を実演を交えて教えてくれた。

ひとまずは一部の小さな土地を、ナツナと2人交代ででクワを使って掘り返す。

拝借した馬の糞を混ぜ合わせながら耕した後、そこに丁寧に種を植えた。

「後は毎日お水をあげるのですよ。お芋は少し時間がかかりますが、瓜はうまく行けば7日間ほどで芽が出ます」

湖から汲んできた水を優しくかけながら、ナツナはそう言った。

「その後は間引きをしたりするのですが、それは芽が出てからまたお伝えしますねー」

「うん、ありがとう。実が出来たら真っ先にナツナにお裾分けするね」

「えへへー楽しみに待っていますね」

どんな芽が出るのか、どんな花を咲かせ、どんな実が出来るのか、今から楽しみで胸が弾む。

カヤは種を植えたばかりの柔らかな土にそっと手を置いた。

(……どうか、無事に育ってくれますように)

そう祈りながら。



その日からカヤは毎日森へ通った。

ナツナに教えてもらった通り、残りの土地を耕し、種を植え、そして水を撒く。
あっという間に両手には豆が出来て、爪の間の汚れは落ちなくなった。

しかし、何か目的を持って生活をするというのはとても良いものだった。

カヤは朝から日が暮れるまで黙々と畑作りにいそしんだ。

時に、お勤め帰りのナツナが来てくれて一緒に作業を手伝ってくれたりした。
そのお陰もあってか、ゆっくりと、しかし着実に畑はそれなりのものになっていった。



――――コウには、あれから一度も会わなかった。

恐らく宣言通り、森を出て自分の国へ帰ったのだろう。

少し寂しい気もしたが、それでも祭事の時には会えるのだと思うと、少し呼吸が楽になった。

もう一度会えたら、きっとこの畑を見てもらおう。
その時には顔を出しているであろう芽を見てもらおう。

きっとコウなら、「凄いな」って言って笑ってくれる。


そんな期待を胸に抱きつつ、畑を作り始めて8日目。
それは、春の祭事を丁度1週間後に控えた、とある晴れた日だった。


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