【完】絶えうるなら、琥珀の隙間
それなりに冷静になった頭が、翠の言葉をゆっくりと嚥下し、その意味を思案する。
その言葉の裏に隠された、本当の意味を。
(何か違う理由があるって言う事……?)
そして今はその理由を説明出来ない、と暗に翠は言っていた。
きっとどれだけ問い詰めたとしても、頑固な翠は口を割らないだろう。
それが手に取るように分かったカヤは、唇をぎゅっと噛むと、再び翠を見つめた。
「じゃあ、その『理由』を聴いたら、またミナトと話しても良いって事だよね?」
そう尋ねるように言ったものの、口から出てきた言葉はほとんど断定口調と言って良いものだった。
なぜならカヤは、絶対に翠が頷くものだと分かっていた。
翠が何故こんな命令を下しているのかは分からないが、すぐにこんなの馬鹿げていると気が付くはずだ。
そうしたら、またミナトと話せる。
今までと何ら変わらずに、軽口を叩き合える間柄に。絶対に。
けれど、翠は首を縦には振ってくれなかった。
「……確約は出来ない」
息を呑む。
そして吸い込んだ息は、はっ、と言う乾いた笑いになって唇から漏れ出てきた。
「冗談やめてよ……それ、もしかしたら、ミナトとずっと話せないかもしれないって事……?」
「そうなるな」
「……一生?」
「一生だ」
ぞくり、と皮膚が粟立った。
冷たい空気にさらされているからか、はたまた翠の言葉に心が凍ってしまったからか。
カヤは身体中で震えながら口を開いた。
「……お、かしい、よ……こんなの、絶対に可笑しい!」
「なあ、カヤ……」
「いくらなんでも横暴すぎる!私、守らないからね!翠のその命令には従えない!」
―――――バンッ!
耳元で鳴った大きな音に、カヤはビクッと肩を震わせた。
翠がカヤの顔のほんの真横の壁に、勢い良く手を付いた音だった。
翠はカヤを囲ったまま、ぐっ、と顔を近づけてくる。
鋭敏な瞳に晒され、心臓があっという間に怖気づいた。
「カヤ。これは翠としての"お願い"じゃない。神官としての"命令"だ」
どの世界に、そんな馬鹿げた命令があると言うのだ。
頭の中でそう自分が叫んだが、駄目だった。
それを言われてしまっては、もう駄目だった。
「……そんな……」
するすると身体中から力が抜けて行って、弛緩した瞼から、支えを失った涙が漏れ出てきた。
(嫌だ、泣きたくない)
此処で泣きたくない。
今の翠の目の前で、弱い所を見せたくなかった。
俯いて乱暴に涙を拭うが、絶望に浸された感情は留まる事を知らない。
「っ、」
ぽろぽろと溢れる涙を止める術が思い浮かばず、カヤは深く深く俯いてしまった。
「……カヤ」
同情したような声と共に翠の指が伸びてきて、びしょ濡れの眼尻をそっと拭う。
そんな優しい指をくれるのに、この人はカヤの望む言葉をくれないのだ。
狡い人。時折この人が見せる無意識的な狡さに、堪らなく苦しくなる。
その言葉の裏に隠された、本当の意味を。
(何か違う理由があるって言う事……?)
そして今はその理由を説明出来ない、と暗に翠は言っていた。
きっとどれだけ問い詰めたとしても、頑固な翠は口を割らないだろう。
それが手に取るように分かったカヤは、唇をぎゅっと噛むと、再び翠を見つめた。
「じゃあ、その『理由』を聴いたら、またミナトと話しても良いって事だよね?」
そう尋ねるように言ったものの、口から出てきた言葉はほとんど断定口調と言って良いものだった。
なぜならカヤは、絶対に翠が頷くものだと分かっていた。
翠が何故こんな命令を下しているのかは分からないが、すぐにこんなの馬鹿げていると気が付くはずだ。
そうしたら、またミナトと話せる。
今までと何ら変わらずに、軽口を叩き合える間柄に。絶対に。
けれど、翠は首を縦には振ってくれなかった。
「……確約は出来ない」
息を呑む。
そして吸い込んだ息は、はっ、と言う乾いた笑いになって唇から漏れ出てきた。
「冗談やめてよ……それ、もしかしたら、ミナトとずっと話せないかもしれないって事……?」
「そうなるな」
「……一生?」
「一生だ」
ぞくり、と皮膚が粟立った。
冷たい空気にさらされているからか、はたまた翠の言葉に心が凍ってしまったからか。
カヤは身体中で震えながら口を開いた。
「……お、かしい、よ……こんなの、絶対に可笑しい!」
「なあ、カヤ……」
「いくらなんでも横暴すぎる!私、守らないからね!翠のその命令には従えない!」
―――――バンッ!
耳元で鳴った大きな音に、カヤはビクッと肩を震わせた。
翠がカヤの顔のほんの真横の壁に、勢い良く手を付いた音だった。
翠はカヤを囲ったまま、ぐっ、と顔を近づけてくる。
鋭敏な瞳に晒され、心臓があっという間に怖気づいた。
「カヤ。これは翠としての"お願い"じゃない。神官としての"命令"だ」
どの世界に、そんな馬鹿げた命令があると言うのだ。
頭の中でそう自分が叫んだが、駄目だった。
それを言われてしまっては、もう駄目だった。
「……そんな……」
するすると身体中から力が抜けて行って、弛緩した瞼から、支えを失った涙が漏れ出てきた。
(嫌だ、泣きたくない)
此処で泣きたくない。
今の翠の目の前で、弱い所を見せたくなかった。
俯いて乱暴に涙を拭うが、絶望に浸された感情は留まる事を知らない。
「っ、」
ぽろぽろと溢れる涙を止める術が思い浮かばず、カヤは深く深く俯いてしまった。
「……カヤ」
同情したような声と共に翠の指が伸びてきて、びしょ濡れの眼尻をそっと拭う。
そんな優しい指をくれるのに、この人はカヤの望む言葉をくれないのだ。
狡い人。時折この人が見せる無意識的な狡さに、堪らなく苦しくなる。