【完】絶えうるなら、琥珀の隙間
ミナトはヤガミに僅かばかり視線を送ると「……悪いな」と呟き、すぐに目を逸らした。


「成程な。お前の目的は、この国の内部に潜り込み、内側から国を崩壊させる事だって訳か」

憎々し気に言った翠は、両手で剣を握りこむと、いつでもミナトに斬りかかれるような体勢を取った。

「無駄話はここらで終わりとしよう。続きは牢で聞く。囲め!」

翠の呼びかけと共に、数十人もの兵がミナトを包囲した。

到底一人では太刀打ちできないであろう数の剣の中心で、それでもミナトは嗤っていた。

「まあ、初めはそれだけが目的だったんですけどね。今は、それ以上の目的があるんで、捕まるわけには行かないんですよ」

「……何だと?」

「俺は、琥珀を連れ帰る」

ゆらり、と遂にミナトの腕が動いた。

流れるような動作で剣を構えたミナトは、周りを囲む兵達に向かって言い放った。

「おい!お前等の中で一度でも俺に勝った奴が居るか?こちとら命が掛かってんだ!俺は本気でお前等を斬り捨てるぞ!死にてえ奴から掛かってこいや!」

たった一人の叫びに、数十人もの兵が一様に慄いたのが分かった。

それほどまでにミナトから発せられる闘志の炎は激しく、触れれば焼けついてしまいそうな程に熱く滾っていたのだ。

ただでさえ恐ろしく強いミナトが、命を討ち捨てる覚悟で戦おうとしている。

数の差があるとは言え、その気迫に勝てる兵が果たして居るものなのか―――――

「……っ全員下がれ!私が相手をする……!」

咆哮と共に、タケルが前に進み出た。

ハッと気が付いた。

タケルなら……ミナトが師と仰ぐタケルなら、彼に勝てるかもしれない。

だが、剣を構えながらミナトに向かうタケルを、

「やめろタケル!」

翠の一言が足止めした。


「し、しかしっ……」

「その状態では死ぬぞ」

それでも抗おうとしたタケルを、翠が冷静に制す。

剣を握るタケルの手は、腹心の部下の裏切りによる動揺からか、カタカタと小刻みに震えていた。

翠の言う通り、こんな状況でも揺らいだ様子を見せないミナトに対して、今のタケルが本来の力を持って勝負を挑めるとは思えなかった。

黙り込むタケルに下がるよう合図し、翠はゆらりと剣を構えた。

「良い。私が相手をする。私が死んだら、その後は頼むぞ」

ぞっ、と心臓が凍り付いた。

翠もまた、ミナトと同じように命を掛けて挑むつもりなのだと分かった。


(まちが、ってる……)

何人かの人間と手合わせをしてきたため、カヤとて分かっていた。

ミナトと互角に戦えるような腕前の持ち主なんて、タケルか翠ぐらいだ。

しかし今のタケルの精神状態では、到底勝てない。

だったら翠が戦うしか無い。そうすれば死人だって出ないかもしれない。

(でもっ、だからって、こんなのっ……!)

こんなの絶対に間違ってるのに。

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