【完】絶えうるなら、琥珀の隙間
「……っ、げほ、げほ!」
激しく咳き込みながら、ズルズルとミナトの身体が地面に倒れ込む。
翠はミナトが落とした剣を蹴り上げて遠ざけると、先ほど放り出した己の剣を手にした。
腹を押さえ、ミナトは息も絶え絶えに翠を見上げる。
翠は血塗れの右腕で剣を握りながら、厳しい目つきでミナトを見下ろしていた。
「……お見事、です」
そう呟き、ミナトは諦めたように目を閉じた。
潔く負けを認めたかのように。
甘んじて死を受け入れるように。
それを感じたらしい翠が、ゆっくりと剣を頭上に上げた。
「終わりだ、ミズノエ」
そして、正にそれが振り下ろされようとした時だった。
「――――――動くな、翠!」
空気を裂くような声と共に、翠の剣がビタッ!と止まった。
「……え……?」
カヤは、得も言えぬ違和感に声を上げた。
首に、何かひやりとした感触を感じたのだ。
恐る恐る眼球を真下に向け、そして目に入った光景に戦慄した。
いつの間にか己の喉元に、小さな刃が押し当てられていた。
それはカヤの首の皮膚を簡単に押し破れるような鋭い刃先をしていて、ギラギラと怪しく光っていた。
(な、に、これ……)
次にカヤは、眼球をぎこちなく右側に向けた。
そして自分に刃を押し当てている人物の姿を捉えた瞬間、息を呑んだ。
「……り、律……?」
混じりけの無い、純粋な『白』があった。
律だ。そこには律が居た。
何も変わっていない。
やっぱり秀麗な顔立ちをしていて、そして相変わらず皮膚も髪も、見事に白色だった。
彼女は以前、間者の疑いを掛けられ、捕らえられた。
しかし数日後には、忽然と姿を消してしまったはず。
そんな律が、どうしてこんな所に居て、しかもカヤに刃を突き付けているのだろうか。
驚きと恐怖のあまり一切動けないでいると、律はほとんど唇を動かす事なく囁いた。
「……頼む。絶対に傷付けないから大人しくしていてくれ」
「え……」
思わぬ言葉に驚きの声を漏らすと、律は翠に向かって言い放った。
「翠!剣を捨てろ!」
「おい、女!カヤに手を出すな!」
「聞こえなかったのか!この娘の命が惜しくば、剣を捨てて下がれ!」
翠は忌々し気に眉を歪めると、乱暴に剣を投げ捨て、後ずさってミナトから離れた。
それと同時、律が何かを思い切り放り投げた。
それは夜闇を舞うと、パリーン!と割れるような音と共に、ミナトと翠の間に落下する。
ぷうん、と油のような匂いがした気がしたかと思えば、次の瞬間、ぶわっ!と音を立てて勢い良く炎が上がった。
メラメラと燃え盛る炎の壁は、翠とミナトを隔てるかのように勢いを増す。
「カヤ!」
こちらに向かって来ようとした翠に向かって、律がまた何かを放った。
今度こそ目に捕らえたそれは、小さな小瓶のようなものだった。
翠の目の前に落下したそれは、またもや一瞬で炎を吹き、今度は翠とカヤの間に超えられない灼熱の壁を作った。
激しく咳き込みながら、ズルズルとミナトの身体が地面に倒れ込む。
翠はミナトが落とした剣を蹴り上げて遠ざけると、先ほど放り出した己の剣を手にした。
腹を押さえ、ミナトは息も絶え絶えに翠を見上げる。
翠は血塗れの右腕で剣を握りながら、厳しい目つきでミナトを見下ろしていた。
「……お見事、です」
そう呟き、ミナトは諦めたように目を閉じた。
潔く負けを認めたかのように。
甘んじて死を受け入れるように。
それを感じたらしい翠が、ゆっくりと剣を頭上に上げた。
「終わりだ、ミズノエ」
そして、正にそれが振り下ろされようとした時だった。
「――――――動くな、翠!」
空気を裂くような声と共に、翠の剣がビタッ!と止まった。
「……え……?」
カヤは、得も言えぬ違和感に声を上げた。
首に、何かひやりとした感触を感じたのだ。
恐る恐る眼球を真下に向け、そして目に入った光景に戦慄した。
いつの間にか己の喉元に、小さな刃が押し当てられていた。
それはカヤの首の皮膚を簡単に押し破れるような鋭い刃先をしていて、ギラギラと怪しく光っていた。
(な、に、これ……)
次にカヤは、眼球をぎこちなく右側に向けた。
そして自分に刃を押し当てている人物の姿を捉えた瞬間、息を呑んだ。
「……り、律……?」
混じりけの無い、純粋な『白』があった。
律だ。そこには律が居た。
何も変わっていない。
やっぱり秀麗な顔立ちをしていて、そして相変わらず皮膚も髪も、見事に白色だった。
彼女は以前、間者の疑いを掛けられ、捕らえられた。
しかし数日後には、忽然と姿を消してしまったはず。
そんな律が、どうしてこんな所に居て、しかもカヤに刃を突き付けているのだろうか。
驚きと恐怖のあまり一切動けないでいると、律はほとんど唇を動かす事なく囁いた。
「……頼む。絶対に傷付けないから大人しくしていてくれ」
「え……」
思わぬ言葉に驚きの声を漏らすと、律は翠に向かって言い放った。
「翠!剣を捨てろ!」
「おい、女!カヤに手を出すな!」
「聞こえなかったのか!この娘の命が惜しくば、剣を捨てて下がれ!」
翠は忌々し気に眉を歪めると、乱暴に剣を投げ捨て、後ずさってミナトから離れた。
それと同時、律が何かを思い切り放り投げた。
それは夜闇を舞うと、パリーン!と割れるような音と共に、ミナトと翠の間に落下する。
ぷうん、と油のような匂いがした気がしたかと思えば、次の瞬間、ぶわっ!と音を立てて勢い良く炎が上がった。
メラメラと燃え盛る炎の壁は、翠とミナトを隔てるかのように勢いを増す。
「カヤ!」
こちらに向かって来ようとした翠に向かって、律がまた何かを放った。
今度こそ目に捕らえたそれは、小さな小瓶のようなものだった。
翠の目の前に落下したそれは、またもや一瞬で炎を吹き、今度は翠とカヤの間に超えられない灼熱の壁を作った。