【完】絶えうるなら、琥珀の隙間
カヤはあの時の言葉を信じ、きっぱりと言い放った。

「畑を耕しているだけです。何か問題でも?」

意地悪くカヤを見下ろす膳の眼を、穴が開く勢いで射る。

膳は僅かに黙った後、それからニヤリと口元を緩めた。

「ほう、ほう。畑をねえ……」

意味ありげに頷きながら顎に手をやるその仕草にさえ吐き気がする。

次にどんな言葉が来るのか身構えるカヤに、膳はわざとらしく首を捻りながら言った。

「その畑に植える種は……どうやって手に入れたのだ?」

「どうやってって……」

それを聞いたところで一体どうなるのだ、と戸惑うカヤの耳に、とんでもない言葉が飛び込んできた。


「まさか、盗んだのではあるまいな?」


一瞬、耳を疑った。

「なっ……そんな事するわけがっ……!」

「いや、善良な民からの訴えがあってな。……お主が人様から盗んだ種を使って、こっそり作物を育て、私腹を肥やしている、とな」

わざとらしく溜息を付く膳に、カヤは悟った。
この男は、あの日自分に恥をかかせた自分に復讐する機会をずっと伺っていたのだ。

事実を捻じ曲げ、無理矢理にカヤを貶めようとしている。
――――ナツナをも巻き込んで。


絶句するカヤに、唐突にナツナが声を上げた。

「ち、違います、膳様!その種は私がカヤちゃんにあげたのです!」

声を震わせ必死に訴えるナツナに、喉の奥が痛くなる。
感じた事のない種類の痛さだった。

膳は、いやらしく眼を細めてナツナを見やる。

「なんと、この娘の味方をするとは……さては、お主も共犯だな?近頃の若者は恐ろしいな。息をするように嘘を吐く」

ナツナが息を呑む。

ふざけた戯言に、カッと頭の奥が赤くなった。
炎のような怒りがわなわなと沸いてきて、全身を震えさせる。

「あんた、いい加減にっ……!」

「――――何の騒ぎだ!」

勢いよく立ち上がりかけたカヤの耳に、鋭い声が届いた。

ハッとしてそちらを見やると、カヤたちを遠巻きに見ていた村人の壁がパッと開いた。

蹄の音と共にそこから出てきたのはミナトだった。
『リン』と呼ばれていたあの黄白色の馬に跨っている。

そしてミナトの後ろからは、同じく馬に乗った部下らしき男達が数人現れた。



「……ちっ、鼻が利く」

膳が小さく舌打ちをしたのを、カヤは聞き逃さなかった。

ミナトは機敏に下馬すると、スタスタとこちらに歩いてきた。
その表情は戸惑いに溢れている。

「膳様、一体これはどういう事でしょうか?」

ミナトの眼が、地面に膝をつくナツナ、立ち上がりかけているカヤ、それから膳へと移る。

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