【完】絶えうるなら、琥珀の隙間
「ミズノエが言っていたぞ。食事、ほとんど採ってないんだって?」
「うん……ちょっと食べれそうになくて……」
律に心配かけないように笑みを作ったが、弱々しい笑顔なのが自分でも良く分かった。
食べないといけないのは分かっているが、今日はどう考えても無理そうだった。
食べ物の事を想像しただけでも吐き気がしてしまう。
「こんなに泣き腫らした眼して……可哀想に」
先ほどハヤセミとやり合った時のせいだろう。
まだ少し熱を帯びている瞼を、律がそっと撫でてくれた。
外から帰ってきたばかりのせいか、ひんやりとした手が気持ちいい。
目を閉じながらその温度を感じていると、律が「そうだ」と思い出したかのような声を上げた。
「果実を絞ってきたんだ。とにかく何か口に入れないと。飲めそうか?」
目の前に差し出された器の中で、橙色の果汁が波打っている。
ふわりと漂ってきた香りで、柑橘系の果実だと分かった。
酸味のありそうなその香りを嗅ぎ、なんとなくそれなら口に含めそうな気がした。
「ありがとう……助かるよ」
肘を付いて身体を起こそうとした時、律がカヤの肩を優しく押した。
「待て。辛いだろうから、そのままで居ろ。飲ませてやる」
そう言って、律はカヤが飲むはずだった器に何故か口を付けた。
思いがけない行動に、カヤは目を瞬く。
「え……なにして……んむ」
口にしかけた疑問は、柔い感触に呑みこまれた。
ほんの目の前に、律の長い睫毛が見える。
律って睫毛まで白いんだ……なんて思った瞬間、咥内に酸味のある液体が流れ込んできた。
「っ、」
ごくん。
驚きと共に、律が口移してくれた果汁が喉を通っていく。
(あ、美味しい)
ぼんやりとそう感じた時、記憶が優しく揺り動かされた。
カヤを水底に引き摺り込む白い指。
水中を生き物のように揺蕩う長い黒髪。
水面の向う側で揺らぐ二つの松明の炎。
あれ、前にもどこかで似たような事があった気が―――――――
「……よし、ちゃんと飲んだな」
見事に石化していたカヤから唇を放し、律が褒めるように頭を撫でた。
「どうだ、飲めそうか?飲めそうなら、もう一回……」
「ま、ま、待って!待って律!」
意識を取り戻したカヤは、すでに二口目の果汁を口にしようとしていた律を必死に制止した。
「どうした?」
律はキョトンとしたように首を傾げる。
(な、なんでそんな普通の顔っ……!?)
未だに感触の残っている唇を押さえながら、カヤは自分の心拍数が一気に上がっていったのが分かった。
「あのっ、あのっ、さすがに口はっ……いや、別に嫌じゃないんだけど、口は……!」
真っ赤になって、しどろもどろに言う。
すると、律が申し訳無さそうに眉を下げた。
「うん……ちょっと食べれそうになくて……」
律に心配かけないように笑みを作ったが、弱々しい笑顔なのが自分でも良く分かった。
食べないといけないのは分かっているが、今日はどう考えても無理そうだった。
食べ物の事を想像しただけでも吐き気がしてしまう。
「こんなに泣き腫らした眼して……可哀想に」
先ほどハヤセミとやり合った時のせいだろう。
まだ少し熱を帯びている瞼を、律がそっと撫でてくれた。
外から帰ってきたばかりのせいか、ひんやりとした手が気持ちいい。
目を閉じながらその温度を感じていると、律が「そうだ」と思い出したかのような声を上げた。
「果実を絞ってきたんだ。とにかく何か口に入れないと。飲めそうか?」
目の前に差し出された器の中で、橙色の果汁が波打っている。
ふわりと漂ってきた香りで、柑橘系の果実だと分かった。
酸味のありそうなその香りを嗅ぎ、なんとなくそれなら口に含めそうな気がした。
「ありがとう……助かるよ」
肘を付いて身体を起こそうとした時、律がカヤの肩を優しく押した。
「待て。辛いだろうから、そのままで居ろ。飲ませてやる」
そう言って、律はカヤが飲むはずだった器に何故か口を付けた。
思いがけない行動に、カヤは目を瞬く。
「え……なにして……んむ」
口にしかけた疑問は、柔い感触に呑みこまれた。
ほんの目の前に、律の長い睫毛が見える。
律って睫毛まで白いんだ……なんて思った瞬間、咥内に酸味のある液体が流れ込んできた。
「っ、」
ごくん。
驚きと共に、律が口移してくれた果汁が喉を通っていく。
(あ、美味しい)
ぼんやりとそう感じた時、記憶が優しく揺り動かされた。
カヤを水底に引き摺り込む白い指。
水中を生き物のように揺蕩う長い黒髪。
水面の向う側で揺らぐ二つの松明の炎。
あれ、前にもどこかで似たような事があった気が―――――――
「……よし、ちゃんと飲んだな」
見事に石化していたカヤから唇を放し、律が褒めるように頭を撫でた。
「どうだ、飲めそうか?飲めそうなら、もう一回……」
「ま、ま、待って!待って律!」
意識を取り戻したカヤは、すでに二口目の果汁を口にしようとしていた律を必死に制止した。
「どうした?」
律はキョトンとしたように首を傾げる。
(な、なんでそんな普通の顔っ……!?)
未だに感触の残っている唇を押さえながら、カヤは自分の心拍数が一気に上がっていったのが分かった。
「あのっ、あのっ、さすがに口はっ……いや、別に嫌じゃないんだけど、口は……!」
真っ赤になって、しどろもどろに言う。
すると、律が申し訳無さそうに眉を下げた。