【完】絶えうるなら、琥珀の隙間
「そう言えば、クンリク様。髪の方はどういたしましょうか?そのままだとお寂しいですよね」

衣装を捜していた女官が、くるりと振り返りながらそう尋ねてきた。

「な、なんでも良いです……お好きにして頂ければ……」

「あら、そうですか?短いのが残念ですわね……そうだ、確か大ぶりの髪飾がありましたわ!あれならお似合いになるかもしれません!取って参りますので、少々お待ち下さいな」

「あ……!いやいや、そんなわざわざ……!」

止めるカヤの声を聴かず、女官は足早に部屋を出て行った。

ああ、これで終わりがまた遠のいていく。

ガックリと肩を落としていると、何やら廊下から先ほどの女官の声が聞こえてきた。

「―――――あら、ミズノエ様!丁度良いところに!」

「―――――……え?俺?」

それとは別に聞こえてきたのは、戸惑ったようなミナトの声だ。

どうやら近くを通りかかったらしい。


「良い加減にそろそろお衣装をお決め下さいな!ミズノエ様にお似合いになりそうなお衣装を幾つか選んであるので、もう今決めてしまって下さい!お衣装が決まらないと、他の事が進みやしません!」

「あー……悪い、今度決めるから……って、おい、こら!」

「少しだけですから!それに丁度クンリク様もお決め頂いている最中なのでございますよ!ほらほら!」

「いや、俺、今から大事な用事がっ……」

二つの声が近づいて来たかと思えば、女官に引っ張られながらミナトが入口から現れた。

「あのなあ、人の話を聞け……って……」

カヤの姿を目にした瞬間、ミナトの口がポカンと空いた。


(え、なに、その顔)

なんだか酷く気恥ずかしくなってしまい、咄嗟にミナトの視界から逃れようとしたが、生憎部屋の中にはカヤが身を隠せるような場所は無かった。

結果的にカヤは、もじもじとしながら俯くしか無かった。


「お綺麗ですよねえ。どうですか、ご感想は?」

無言のミナトに女官が無邪気に声を掛ける。

やめてくれ!と、叶うのならば大声で叫びたかった。


「……んなヒラヒラしたもん着てっと、裾踏んづけてすっ転ぶぞ」

「あ、ミズノエ様!」

何となく予想していたようなご感想を仰って、女官が止めるのも聞かずミナトは部屋を出て行った。

どうせ足短いよ。

ムスッと頬を膨らませていると、女官が含み笑いをしながらカヤに近づいてきた。

「ふふ、気にしてはいけませんよ。きっと照れていらっしゃるんです」

そう言った女官の笑顔は、何となく何処かで見た事がある種類の笑顔だった。


(……何処だったっけ)

―――――そうだ。ユタやヤガミが時折ミナトに対して見せた、何か面白がっているような笑顔だ。


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