【完】絶えうるなら、琥珀の隙間
それは何とも意外だった。
この国の人も、ミナトに対してユタ達と同じような顔をするのか。
これは最近気が付いたのだが、砦に仕える人達は思いの他ミナトに親し気な人が多かった。
長い間、翠の国に間者として潜んでいたミナトは、カヤよりもこの砦に居た年数は短いはずなのだが。
「……皆さんは、ミナト……じゃなくて、ミズノエの事を、よくご存じなんですか?」
「私は昔から砦にお仕えしているので、幼い頃のミズノエ様なら良く知っております。しばらくは公務のため異国にいらっしゃったそうなので、お見かけしませんでしたが」
どうやら砦内では、ミナトが不在だった理由があくまで『異国での公務』と説明されていたらしい。
「お久しぶりにお会いして、思いの他ふてぶてしく……おっと、失礼しました。逞しくなられていたので驚きました。昔は良く泣いていらっしゃるお方だったのに、あんなにご成長なさるものなんですねぇ。まあ昔のミズノエ様も、あれはあれで可愛らしかったんですけど」
薄っすら失礼な事を言いかけたように思ったが、すぐに言い直した女官は、しみじみとそう言った。
彼女が発言は意外なものだった。
"出来損ない"と言われ続けたミズノエは、この砦では居場所が無さそうだったのに。
「ミズノエの事、そんな風に思っていたんですね……」
「え?」
「あ、いや、もっとこう……疎まれてたりするのかなーと思ってたので……彼、結構ハヤセミ様と比較される事が多かったので……」
しどろもどろになりながら言えば、女官は「ああ、成程」とケラケラ笑った。
「確かにハヤセミ様と比べれば、少々苦手としている事は多かったでしょうけど、その分ミズノエ様は素直なお方でしたし、疎むなんてそんな事あるわけありません。寧ろ砦の者達は皆気に掛けてましたよ。まあ、あれですね。出来の悪い子ほど可愛い、ってやつです」
もしかすると――――カヤもミズノエ自身も、勘違いをしていたのだろうか。
いつも所在無さげなミズノエだったけれど、実は彼が持つ優しさに気が付いていた人達は、案外多く居たのかもしれない。
「そうなんですね……」と呆けたように返答したカヤに、女官はうっとりとため息交じりに言った。
「あれだけ逞しくなられたのも、きっとクンリク様への愛の力ってやつですねぇ」
ミナトが聞いたら、なんとも頭を抱えそうな科白だ。
とは言え砦の者達は皆、カヤとミナトが愛し合っていると思っている。
ここで全否定するのも不自然だ。
「そ、そういうわけではないとは思うんですけどねぇ……?」
曖昧に首を捻れば、カヤが照れていると勘違いしていたらしい彼女は、クスクスと笑った。
この国の人も、ミナトに対してユタ達と同じような顔をするのか。
これは最近気が付いたのだが、砦に仕える人達は思いの他ミナトに親し気な人が多かった。
長い間、翠の国に間者として潜んでいたミナトは、カヤよりもこの砦に居た年数は短いはずなのだが。
「……皆さんは、ミナト……じゃなくて、ミズノエの事を、よくご存じなんですか?」
「私は昔から砦にお仕えしているので、幼い頃のミズノエ様なら良く知っております。しばらくは公務のため異国にいらっしゃったそうなので、お見かけしませんでしたが」
どうやら砦内では、ミナトが不在だった理由があくまで『異国での公務』と説明されていたらしい。
「お久しぶりにお会いして、思いの他ふてぶてしく……おっと、失礼しました。逞しくなられていたので驚きました。昔は良く泣いていらっしゃるお方だったのに、あんなにご成長なさるものなんですねぇ。まあ昔のミズノエ様も、あれはあれで可愛らしかったんですけど」
薄っすら失礼な事を言いかけたように思ったが、すぐに言い直した女官は、しみじみとそう言った。
彼女が発言は意外なものだった。
"出来損ない"と言われ続けたミズノエは、この砦では居場所が無さそうだったのに。
「ミズノエの事、そんな風に思っていたんですね……」
「え?」
「あ、いや、もっとこう……疎まれてたりするのかなーと思ってたので……彼、結構ハヤセミ様と比較される事が多かったので……」
しどろもどろになりながら言えば、女官は「ああ、成程」とケラケラ笑った。
「確かにハヤセミ様と比べれば、少々苦手としている事は多かったでしょうけど、その分ミズノエ様は素直なお方でしたし、疎むなんてそんな事あるわけありません。寧ろ砦の者達は皆気に掛けてましたよ。まあ、あれですね。出来の悪い子ほど可愛い、ってやつです」
もしかすると――――カヤもミズノエ自身も、勘違いをしていたのだろうか。
いつも所在無さげなミズノエだったけれど、実は彼が持つ優しさに気が付いていた人達は、案外多く居たのかもしれない。
「そうなんですね……」と呆けたように返答したカヤに、女官はうっとりとため息交じりに言った。
「あれだけ逞しくなられたのも、きっとクンリク様への愛の力ってやつですねぇ」
ミナトが聞いたら、なんとも頭を抱えそうな科白だ。
とは言え砦の者達は皆、カヤとミナトが愛し合っていると思っている。
ここで全否定するのも不自然だ。
「そ、そういうわけではないとは思うんですけどねぇ……?」
曖昧に首を捻れば、カヤが照れていると勘違いしていたらしい彼女は、クスクスと笑った。