【完】絶えうるなら、琥珀の隙間
カヤは夜具に向かって深い深い溜息を吐いた。
一体どうすれば良いのだろうか。
このままでは本当に祝言を上げる事になってしまう。
「―――――……カヤ……カヤ!大変だ!」
突如部屋に飛び込んできた人物に、カヤは飛び上がった。
「律!?」
そこには息を切らせている律が居た。
いつの間に帰ってきたのだろう。
律は、今までで一番長い期間砦を不在にしていた。
「ど、どうしたの?」
「良いからすぐに来てくれ!」
「へっ……うわわわ!」
返事をする間も無く、カヤは律にヒョイっと担ぎ上げられた。
律はそのまま部屋を飛び出る。
「何!?何があったの!?」
ただ事では無いその様子に、律に揺られながらも必死に尋ねる。
律はカヤを担いでいるにも関わらず信じられない速度で廊下を疾走しながら、焦ったように言った。
「翠が……翠が来ているんだ!」
その名前を聞いた瞬間、ドクン、と心臓が跳ねた。
「えっ……どういう事!?」
来てるって、この砦に?翠が?
そんな、まさか!
「以前ハヤセミが、翠が直談判を要求してきたって言ってただろう?きっとハヤセミがそれを呑んだんだ!」
確かにハヤセミは、カヤの身柄を返すよう三度ほど勧告されたと言っていた。
そして全てを丁重に断った結果、遂に直談判を要求されたとも。
「で、でも、翠が来るなんて事、全然聞いてないよ!?それにあの時ハヤセミは、私に『翠に私の意志で此処に居ると言え』って……」
あんな腸が煮えくり返るような事を言っておいて、カヤに翠を会わせやしないなんて、矛盾している。
「理由は良く分からないが、砦の者はほとんど知らされてないようだ!ったく、私達にすら言わないとは、ミズノエの奴、一体何を考えてるんだか!」
「それなら律はどうやってそれを知ったのっ……?」
「今まで黙っててすまなかったが、私は翠の動きを監視してたんだ!だから偶然知れた!」
律が砦の外で何をしているのかが分かった。
彼女は翠を見張っていたのだ。でも、何故。
状況に付いていけず「え、え」と戸惑いの声を漏らしている内に、二人は普段カヤが食事をしている広間の前に付いた。
中の様子は見えないが、広間からは複数人の話し声が漏れ出ていた。
離れているため微かにしか聞こえないものの、その中に聞き覚えるのある声が混ざっている気がして、鼓動がドキドキし始める。
律は抱えていたカヤを降ろすと、呆けているカヤの背中を押した。
「中に翠が居るはずだ。行け!」
「で、でもっ……」
入っていって、一体何を言えば良いのか。
尻込みしたカヤの瞳を、律が真剣な表情で覗き込んできた。
「翠に会いたくないのか!」
(会いたい)
何を躊躇している暇があると言うのだろう。
決心して頷いたカヤは、律に見守られながらゆっくりと足を進める。
一体どうすれば良いのだろうか。
このままでは本当に祝言を上げる事になってしまう。
「―――――……カヤ……カヤ!大変だ!」
突如部屋に飛び込んできた人物に、カヤは飛び上がった。
「律!?」
そこには息を切らせている律が居た。
いつの間に帰ってきたのだろう。
律は、今までで一番長い期間砦を不在にしていた。
「ど、どうしたの?」
「良いからすぐに来てくれ!」
「へっ……うわわわ!」
返事をする間も無く、カヤは律にヒョイっと担ぎ上げられた。
律はそのまま部屋を飛び出る。
「何!?何があったの!?」
ただ事では無いその様子に、律に揺られながらも必死に尋ねる。
律はカヤを担いでいるにも関わらず信じられない速度で廊下を疾走しながら、焦ったように言った。
「翠が……翠が来ているんだ!」
その名前を聞いた瞬間、ドクン、と心臓が跳ねた。
「えっ……どういう事!?」
来てるって、この砦に?翠が?
そんな、まさか!
「以前ハヤセミが、翠が直談判を要求してきたって言ってただろう?きっとハヤセミがそれを呑んだんだ!」
確かにハヤセミは、カヤの身柄を返すよう三度ほど勧告されたと言っていた。
そして全てを丁重に断った結果、遂に直談判を要求されたとも。
「で、でも、翠が来るなんて事、全然聞いてないよ!?それにあの時ハヤセミは、私に『翠に私の意志で此処に居ると言え』って……」
あんな腸が煮えくり返るような事を言っておいて、カヤに翠を会わせやしないなんて、矛盾している。
「理由は良く分からないが、砦の者はほとんど知らされてないようだ!ったく、私達にすら言わないとは、ミズノエの奴、一体何を考えてるんだか!」
「それなら律はどうやってそれを知ったのっ……?」
「今まで黙っててすまなかったが、私は翠の動きを監視してたんだ!だから偶然知れた!」
律が砦の外で何をしているのかが分かった。
彼女は翠を見張っていたのだ。でも、何故。
状況に付いていけず「え、え」と戸惑いの声を漏らしている内に、二人は普段カヤが食事をしている広間の前に付いた。
中の様子は見えないが、広間からは複数人の話し声が漏れ出ていた。
離れているため微かにしか聞こえないものの、その中に聞き覚えるのある声が混ざっている気がして、鼓動がドキドキし始める。
律は抱えていたカヤを降ろすと、呆けているカヤの背中を押した。
「中に翠が居るはずだ。行け!」
「で、でもっ……」
入っていって、一体何を言えば良いのか。
尻込みしたカヤの瞳を、律が真剣な表情で覗き込んできた。
「翠に会いたくないのか!」
(会いたい)
何を躊躇している暇があると言うのだろう。
決心して頷いたカヤは、律に見守られながらゆっくりと足を進める。