【完】絶えうるなら、琥珀の隙間
「そんなのミナトが幸せになれるわけが無い!此処に居るミナト、全然楽しそうじゃないよ!あの国でっ……皆と一緒に居た時の方が、ずっと幸せそうな顔してた!」
笑ってよ。
もうこれ以上、自分を偽るミナトなんて絶対に見たくなんか無い。
何も飾らずに生きるミナトが見たかった。
「お願いだから幸せになってよ!私はっ……私は、ミズノエが大切なの!」
―――――だって、貴方は私の全てだった。
その名を呼んだ時、息を呑んだミナトの動きが明らかに鈍った。
それまで当たる気配すら見せなかったカヤの攻撃が、真っ直ぐ真っ直ぐミナトに向かっていく。
(嫌だ、傷付けたくない)
刃を握り締めているくせに、そんな事を思った瞬間、カヤの手は必死に軌道を右に逸らしていた。
ザッ――――鋭い切っ先がミナトの左肩を掠めて、
「っぐ……!」
その呻きが聞こえてきた時、勢いの余り前につんのめった身体は、伸びてきた腕にしっかりと支えられた。
「ふっ、ざけんな!馬鹿野郎が!」
飛んできた怒声に、肩をビクッと震わせる。
ミナトは危うく床に体を打ち付けそうになっていたカヤを、危機一髪で抱えていた。
咄嗟にミナトの左肩を見れば、衣がスパっと割かれていた。
そこからじわりと這い出てきた赤色を眼にした瞬間、さっと血の気が失せる。
「腹に子供が居るんだぞ!無茶な動きしてんじゃねえよ、馬鹿!」
しかし斬られた当の本人は、怪我をしている事すらも気づかないようにカヤに怒鳴り散らす。
その説教は、右から左に流れていった。
短剣を握る右手が、小刻みに震えていた。
(人を……斬ってしまった……しかもミナトを……)
手にしっかりと感触がこびり付いていた。
思っていたよりも軽くて、あっさりとしていた、その恐ろしい感触が。
「あ……」
カラン、と短剣を取り落とした瞬間、カヤはその場にズルズルと崩れ落ちた。
「お、おい、大丈夫か!?」
いきなり座り込んだカヤを覗き込んだミナトは、次の瞬間に息を呑んだ。
「どうした!?腹が痛むのか!?」
お腹を押さえて、うずくまるカヤを眼にしたのだ。
「お腹……い、たい……」
どうにかこうにか、その言葉を吐く。
お腹が内側から圧迫されているような鈍痛がカヤを襲っていた。
一気に噴き出してきた冷や汗が、眉間を伝っていく。
産まれて始めて感じるような耐えがたい痛みに、成す術も無く、そのまま床に倒れ込んだ。
身体をくの字に曲げながら浅い呼吸を繰り返すカヤに、ミナトは完全に平静を失っていた。
「琥珀!しっかりしろ、琥珀!」
――――医務官を呼んできて。
そう言いたいのに痛みのあまり声が出ない。
(翠っ……)
つ、と涙が眼尻から押し出された時だった。
「――――何の騒ぎだ?」
訝し気な声と共に、一番見たくない人物の顔が視界に入り込んできた。
「あ、兄上っ?」
痛みに呻くカヤも、動揺していたミナトも、いつの間にやらハヤセミが部屋に入ってきた事に全く気が付いていなかった。
笑ってよ。
もうこれ以上、自分を偽るミナトなんて絶対に見たくなんか無い。
何も飾らずに生きるミナトが見たかった。
「お願いだから幸せになってよ!私はっ……私は、ミズノエが大切なの!」
―――――だって、貴方は私の全てだった。
その名を呼んだ時、息を呑んだミナトの動きが明らかに鈍った。
それまで当たる気配すら見せなかったカヤの攻撃が、真っ直ぐ真っ直ぐミナトに向かっていく。
(嫌だ、傷付けたくない)
刃を握り締めているくせに、そんな事を思った瞬間、カヤの手は必死に軌道を右に逸らしていた。
ザッ――――鋭い切っ先がミナトの左肩を掠めて、
「っぐ……!」
その呻きが聞こえてきた時、勢いの余り前につんのめった身体は、伸びてきた腕にしっかりと支えられた。
「ふっ、ざけんな!馬鹿野郎が!」
飛んできた怒声に、肩をビクッと震わせる。
ミナトは危うく床に体を打ち付けそうになっていたカヤを、危機一髪で抱えていた。
咄嗟にミナトの左肩を見れば、衣がスパっと割かれていた。
そこからじわりと這い出てきた赤色を眼にした瞬間、さっと血の気が失せる。
「腹に子供が居るんだぞ!無茶な動きしてんじゃねえよ、馬鹿!」
しかし斬られた当の本人は、怪我をしている事すらも気づかないようにカヤに怒鳴り散らす。
その説教は、右から左に流れていった。
短剣を握る右手が、小刻みに震えていた。
(人を……斬ってしまった……しかもミナトを……)
手にしっかりと感触がこびり付いていた。
思っていたよりも軽くて、あっさりとしていた、その恐ろしい感触が。
「あ……」
カラン、と短剣を取り落とした瞬間、カヤはその場にズルズルと崩れ落ちた。
「お、おい、大丈夫か!?」
いきなり座り込んだカヤを覗き込んだミナトは、次の瞬間に息を呑んだ。
「どうした!?腹が痛むのか!?」
お腹を押さえて、うずくまるカヤを眼にしたのだ。
「お腹……い、たい……」
どうにかこうにか、その言葉を吐く。
お腹が内側から圧迫されているような鈍痛がカヤを襲っていた。
一気に噴き出してきた冷や汗が、眉間を伝っていく。
産まれて始めて感じるような耐えがたい痛みに、成す術も無く、そのまま床に倒れ込んだ。
身体をくの字に曲げながら浅い呼吸を繰り返すカヤに、ミナトは完全に平静を失っていた。
「琥珀!しっかりしろ、琥珀!」
――――医務官を呼んできて。
そう言いたいのに痛みのあまり声が出ない。
(翠っ……)
つ、と涙が眼尻から押し出された時だった。
「――――何の騒ぎだ?」
訝し気な声と共に、一番見たくない人物の顔が視界に入り込んできた。
「あ、兄上っ?」
痛みに呻くカヤも、動揺していたミナトも、いつの間にやらハヤセミが部屋に入ってきた事に全く気が付いていなかった。