【完】絶えうるなら、琥珀の隙間
それでもナツナのミナトに対する罵りは、止めようが無かった。

「どれだけ心配したと思ってるのですか!どうして本当の事を言ってくれなかったのですか!しかもカヤちゃんを攫うなんてっ……ふざけるのも大概にするのです!」

「……悪かった」

叩かれ過ぎてボロボロになっているミナトは、眼を伏せてポツリと謝った。

ミナトが申し訳無く思っていないはずが無い。

現にミナトは、ナツナの攻撃を全て甘んじて受け入れていた。

そしてそれをナツナ自身が気が付かない訳もなかった。

ナツナは息を呑むと、やがて力なく俯いた。

「……ミナトは大馬鹿なのですっ……」

「うん、本当に馬鹿だったと思ってる」

「わ、たし、てっきりもう、カヤちゃんも、ミナトもっ……死んでしまったとばかりっ……」

肩を震わせるナツナに胸が痛くなり、カヤは抑えつけていた腕を静かに放した。

ナツナはカヤを、そしてミナトの手を引くと、ぎゅっと抱き締めた。

「二人ともっ……生きてて、良かった……本当に良かった……!」

ぽろぽろと零れる大粒の涙を見て、カヤもまた涙が溢れる事を止められなかった。

同じく隣で号泣していたユタを引き寄せ、四人は固く身を寄せ合う。


――――――生きていて良かった。

全く持って、ナツナの言う通りだった。

こうして、生きてまた大切な人達に会えて本当に良かった。






「そ、それにしても……」

ぐずぐずと鼻を啜りながら、ユタが口を開いた。
泣きすぎたせいで鼻の頭が赤くなっている。

「カヤに子どもが居るって聞いたんだけど……ほ、本当なの……?」

「あ、うん……そうなの。まだあんまりお腹は大きく無いんだけどね」

お腹を撫でながら答えると、ユタとナツナは眼を見合わせた。

なんだろう、その意味ありげな仕草は。

するとユタが、恐る恐ると言った様子で尋ねていた。

「その……父親ってどなたなの……?もしかして、ミナト……?」

「―――――私だよ」

やんわりと会話に入り込んできた声の持ち主を、その場の全員が一斉に見やった。

「翠様……?」

ぽかん、とユタが口を開けた。
と、次の瞬間、彼女は眉を下げて苦笑いを浮かべた。

「い、嫌ですわ、もう。翠様でもご冗談を仰るのですね」

よもやあの翠様が冗談を言うなんて、と言わんばかりの反応だ。
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