【完】絶えうるなら、琥珀の隙間
二人が傍に付いてくれる、と言ってくれた事も嬉しかったし、何より男である翠を神官と認めてくれた。

数えきれないほどの民がこの国には居て、ナツナとユタはその内のたった二人ではあるが、それがどれだけ心強い事か。


「二人とも……ありがとうっ……」

抑え切れない感謝と共に、カヤは掛け替えのない友人を抱き締めた。

「カヤってば、泣き虫ね」

「私達も大概ですけどね」

わんわんと泣くカヤを笑った二人の眼にも、涙が光っていた。



まるで村に居る頃のような居心地の良さと、安堵感。
何一つとして変わらなった。


(生きる場所なんて関係無いんだ)

大切なのは、誰と、どう共に在るかだ。

それを教えてくれた大切な友人の存在を、カヤはしっかりと胸に噛み締めた。








その夜は、膳の家でささやかな宴会が行われた。

女衆は早くから台所に籠り、採れたての山菜をふんだんに使った料理を次々と仕上げて行った。

カヤとユタは、集落の女達、そして料理が得意なナツナに習いながら、それを手伝った。

夜になる頃には、膳の家の部屋の戸をぶち抜いて作った大きな広間に所狭しと料理が並べられ、そして集落中の人間が集まった。

とは言え男達は出稼ぎでほとんど居ないため、女達とその子供、そしてカヤ達を合わせて人数は二十人程だ。

それでも御馳走にはしゃぐ子供たちの声、そして女達の活気あるおしゃべりのおかげで、その場は大変に賑やかだった。



「タ、タケル様っ……どうぞお酌させて下さいませんか!」

カヤが翠と並んで料理を楽しんでいると、ザワザワとした喧噪を縫って、そんな声が聞こえてきた。

少し離れた所でミナトと座っていたタケルの隣に、緊張した面持ちのユタがチョコンと腰を下ろしていた。

その手にはしっかりと酒瓶が握られている。

「おお、すまぬな」

お酒が入って既に上機嫌気味なタケルは、持っていたお猪口を差し出した。

こちらが心配になるくらいにぷるぷると震えた手のユタにお酌をしてもらったタケルは、それを一気に仰いだ。

ユタは心底嬉しそうに、その飲みっぷりを眺めた後、少し照れながらタケルの前にあった器を指さした。

「あの、あの、宜しかったらこちらの和え物を召しあがって下さい!私めが作ったものでございましてっ……」

確かにあれは、ユタが一生懸命に作っていた山菜の和え物だ。

ナツナ監修の一品なので、味に間違いは無いはずだ。

どれどれ、とタケルは小鉢を手に取ると、一口で小鉢を空にした。

「おお、これは美味いぞ!ユタはさぞかし良い嫁になるな!」

他意の無いであろうその言葉は、しかしながらユタには直球すぎた。

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