【完】絶えうるなら、琥珀の隙間
「そ、そんな……お恥ずかしいですわ……」

もじもじと俯くユタに、タケルの隣に座っているミナトがぼそりと呟く。

「……貰い手が居ればの話しだと思いますけどね……いってぇ!」

「あら、ごめんなさいねえ。手が滑ったわ」

ニッコリと笑ったユタの指は、ミナトの腰を思いっきり抓っていた。

しかしタケルがそれに気が付く前に、その指はサッと離れて行く。

「どう滑ったらそうなるんだよ!」

「あら、タケル様、お猪口が空になっておりますわ!お注ぎさせて下さいませ!」

ミナトの突っ込みを華麗に無視し、ユタは再び万遍の笑みでタケルにお酌をした。



箸を止めてその光景を見つめていたカヤは、同じくそれを眺めていた翠に確認をしてみた。

「タケル様って……気が付いてると思う?」

誰が、何に、とまで言う必要は無かった。

「まさか」

翠が肩を竦める。

「我が弟ながらあの鈍感さには感心するよ、ほんと」

わっはっはと機嫌よく笑っているタケルを見ながら、翠が呆れたような溜息を付いた。


「そう言えば、カヤも料理を作ってくれたんだって?どれ作ったんだ?」

目の前に並んでいる数々の料理をキョロキョロと見つめながら、翠が言った。

「あー……うん、一応これなんだけど……」

山菜と筍の炒め物を指差しつつ、カヤは言葉を濁した。

「……食べない方が良いかも」

「なんでだ?」

「お恥ずかしながら失敗してしまいまして……多分美味しくないと思う」

ナツナに付いていて貰いながら作ったと言うのに、彼女が少し目を離した隙に、火加減を間違えて焦がしてしまったのだ。

味見はしてみたが、正直食材の味を殺す勢いで焦げ臭さが物凄かった。

どうにかナツナの手を借りて焦げた部分を取り除いたものの、お味は微妙なはずだ。

しかし翠はそんな料理を口に運ぶと、ハラハラしているカヤに向かってニコッと笑ってくれた。

「いや、美味しいよ」

「あは……ありがと。お世辞でも嬉しいよ」

「お世辞じゃないよ。俺、これ好きだ。また作ってくれ」

褒めるように頭を撫でられ、カヤの心は照れくささと嬉しさで浮足立った。

ああ、もう。
そんな事を言ってくれる翠こそが大好きだ。


なんて思いながら馬鹿みたいに顔中を緩ませていると、

「――――あのー、お邪魔してもよろしいですか、翠様?」

背後からそんな声が聞こえたので、カヤは一瞬で背筋を伸ばした。

いつの間か、ユタとナツナが近くに来ていて、遠慮がちにこちらを窺っていた。

「ああ。勿論だ」

翠が心良く了承すると、二人は喜々とした表情でカヤの真横にやってきた。

ユタに至っては、ニヤニヤ笑いを隠そうともしていない。
彼女がこの顔をする時がどういう時なのか、カヤは良く知っていた。

「……な、何さ」

照れくささで唇を尖らせると、ユタのニヤニヤ笑いに拍車が掛かる。

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