【完】絶えうるなら、琥珀の隙間
「ふふふ。まさかカヤの想い人が翠様だったなんてねえ。そりゃあ探しても見つかるわけ無いわよね」

「探したの!?」

愕然とするカヤをよそに、ユタはあっけらかんと頷く。

「探したわよ。屋敷中の殿方を調べ上げたけど、どうしても見つからなかったのよね。まあ納得だわ」

「な、なんて事を……」

誰かを慕うってどんな感じなの、と、うっかりユタに尋ねてしまったせいで、鼻息荒く問い詰められたあの日を思い出す。

カヤの想い人が誰なのか気になっていた様子のユタは、正に恐れていた通りの行動をしてくれたらしい。

「だってカヤってば絶対に言わないんだもの。気になるじゃない?」

軽い調子でそんな事を言われ、カヤはガックリと項垂れた。


「でも、カヤちゃんにあんなお顔をさせていたのは、翠様だったと知れて良かったのです」

穏やかな調子でナツナがそう言った。
その場で萎れていたカヤは、のろのろと頭を上げる。

「……あんな顔って、どんな顔?」

尋ねると、ナツナは頬に手を当てながら、うふふ、とはにかんだ。

「慕っていらっしゃる方の事をお話してくれた時の、カヤちゃんのお顔の事なのです」

「ああ、あの時ね。面白かったわよねえ。どこからどう見ても完全に恋患いなのに、必死に否定してて……もがっ」

一瞬でユタの口を塞いだカヤは、手遅れだったとは思いつつも、そろそろと翠を振り返った。

「へえ。それは俺も見たかったな。どんな顔だったんだ?」

翠は笑いを堪えるような表情を浮かべていた。
いや、何なら既に笑っている。

羞恥で消え去りたくなっているカヤの代わりに、ナツナが悪意なく答えた。

「お耳まで真っ赤だったのですよ。とっても可愛かったのですー」

「わー!わー!もう止めて!言わないでぇええぇ!」

思わず叫んだカヤに、今度こそ翠は声を上げて笑ったのだった。






カヤが散々にからかわれた宴は、皆が良く食べ、良く飲み、大賑わいを見せた後、ようやく幕を下ろした。


―――――カヤと翠が膳に呼び出されたのは、後片付けも終わり、集落の者達が全員帰路へ付いた後だった。




「話とは何だ?」

宴の時とは打って変わり、家の中は賑わい後の独特な静けさに包まれている。

カヤと翠は、揺ら揺らと行灯の火が揺れる部屋の中で、膳と向かい合って座していた。

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