【完】絶えうるなら、琥珀の隙間
「ねえ、翠。今回はどれくらい居れるの?」

「五日程は居れるよ」

その返答に、カヤの心は浮足立った。

「やった!いっぱい一緒に居れるね」

嬉しくなって、思わず翠の空いている方の手を握る。

ぶんぶんと手を揺らすと、翠は「そうだな」と言って笑った。


"近隣諸国と和平交渉を進める"と宣言した翠は、この二年半の年月のほとんどを、あちこち飛び回りながら過ごしていた。

身体が幾つあっても足りないほどに忙しいであろう翠だったが、それでも無理矢理に時間を作っては、こうして集落までカヤに会いに来てくれる。

全く寂しくない、と言えば嘘になるが、それでも翠が忙しい合間を縫って会いに来てくれるこの僅かな時間が、カヤはとても大切だった。



「そう言えば、皆変わりないか?」

翠の言葉に、カヤは元気よく頷いた。

「うん!膳様とナツナは今日一緒にご飯食べる約束したし、ユタは新しい薬草を見つけたーって言って、二日は家に閉じこもってるよ。後で差し入れ持ってくつもり。それから、弥依彦は……」

「ひこ!」

突如声を上げた蒼月に、カヤは驚いて口を紡いだ。

蒼月が指さす先を見れば、丁度畑を一本挟んだ道の向こう側を、剣を担いだ弥依彦が歩いていた。

「ひこー!ひこー!」

蒼月が大きな声を上げながらぶんぶんと手を振るので、弥依彦がこちらに顔を向けた。

彼はカヤ達に気が付くと、ムスッとしながらも小さく頭を下げ、足早に森へと消えていった。


「弥依彦殿は、またお痩せになられたな」

その背中を見送りながら、翠がポツリと言った。

確かに翠の言う通り、弥依彦はこの集落に来てから、かなり体型が変わった。

野菜中心の素朴な食事と畑仕事のせいか、無駄な肉がそぎ落とされ、今や別人のように痩せている。


「うん……まあ中身はあんまり変わんないんだけどね」

集落に来た当初は、虫が多いだとか、食事の味が薄いだとかで騒ぎまくっていた弥依彦だったが、集落の女達や虎松に鍛えられたせいか、そのような文句も少なくはなってきた。

とは言え、やはり口を開けば攻撃的な言葉を発する事も多い。


「それにしても、蒼月はえらく弥依彦殿に懐いてたな」

翠の言葉に、カヤは大きく頷いた。

「いつもそうなの。あんまり接点無いはずなんだけど……不思議だよね」

何故だか蒼月は、今のように弥依彦を見かけると必ず彼を呼ぶのだ。

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