【完】絶えうるなら、琥珀の隙間
「こ、わいっ……怖いよ、翠……!」

ねえ、恐ろしく怖いんだ。

今でさえ不安で死んでしまいそうなのに、これから先、私は何度この押し寄せる孤独感に苦しめば良いのだろう?

「っお願い……翠、お願い……」

名前を呼んでよ。抱き締めてよ。頭を撫でてよ。

それで、言ってよ。
いつもみたいに笑って、言って。

大丈夫だよ、って。
何の心配もないよ、って。


――――――そうじゃなきゃ、歩けないよ。













「ねえねえ、かか」

散々に泣き喚き、長い間地面につっぷしたままだったカヤの背中を、蒼月が叩いた。

泣きすぎて痛む頭を押さえながら、ゆっくりと起き上がる。

「ん……どうしたの?」

いつの間に泣き止んだのだか、あれだけ顔を真っ赤にして嗚咽していた我が子は、ケロリとした表情をしていた。


「あのねえ、おそとでたいの」

そう言って蒼月が指さすのは天幕の外。

天幕越しにザアザアと大粒の雨の音が聞こえてくる。
相変わらず雨の勢いは留まる事を知らないようだ。


「……駄目だよ、酷い雨だし……って、蒼月!」

カヤはギョッとして立ち上がった。

蒼月がカヤの言う事も聞かずに、勝手に外に向かって走って行ってしまったのだ。

天幕の隙間からスルリと姿を消してしまった蒼月を慌てて追いかける。

勢いよく天幕を捲ると、目の前には数えきれないほどの天幕が、所狭しと張られていた。

その天幕の隙間を縫うようにして、小さな背中が遠ざかっていくのが見える。

焦りながら一歩踏み出した瞬間、滝のような雨がカヤの全身に降りかかった。

しかしそんな事も気にしていられず、カヤは蒼月の名を呼びながら、必死に走った。

「蒼月!待ちなさい!お願いだからっ……!」

蒼月を追いかける最中、辺りの地形に何やら見覚えがある事に気が付いた。

そうか。ここは、一度翠達と隣国へ赴いた時に野営をした場所なのだ。

そんな事に気が付いた時、ようやくカヤは蒼月に追いついた。

「っ捕まえた……!」

蒼月の身体を後ろから抱き締め、カヤはその場に座り込んだ。

「もう、勝手に走っちゃ駄目でしょ!こんなに濡れて……」

カヤと同じくらいにびしょ濡れの蒼月を雨から隠そうと、ぎゅっと腕の中に囲う。

「きれいねえ」

すると、腕の中で蒼月がご機嫌そうに笑った。

「え?何が?」

「おそら、きれい」

蒼月に釣られるようにして顔を上げ、そして目の前に広がっていた光景に息を呑む。

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