【完】絶えうるなら、琥珀の隙間
溢れ出る申し訳なさに俯きながら、カヤはもう一度言った。
「本当にごめん、ミナト……どうかお願い……」
祈るように懇願した時、ミナトが大きく息を飲んだ。
「っざけんな……」
震える声が聞こえた。
驚いて顔を上げれば、ミナトの眉根はぐちゃぐちゃに歪んでいた。
「……俺は、こんな事のために、あの人にお前を渡したわけじゃねえんだよっ……」
振り絞るような声に、訳もなく呼吸が止まる。
「ッ兄上!」
次の瞬間、ミナトは意を決したように、ハヤセミに叫んだ。
「俺は婚姻の儀は挙げません!それが例え兄上の命令でもっ……琥珀の頼みだとしてもです!」
ミナトが勢いよく身を乗り出すので、手首を繋いでいる鉄格子が、ガシャンガシャンと揺れた。
その度にミナトの手首の縄が痛々しく食い込むが、彼はそんな事も意に介さない様子で、必死にハヤセミに訴えかける。
「兄上が望むのなら、俺は一生貴方に付いていきます!二度と裏切りません!今度こそ、俺の全てを掛けて忠誠を誓います!だから、琥珀も蒼月も自由にしてやって下さい!どうか後生で御座いますっ……!」
地に頭を擦りつける勢いで平伏したミナトに、カヤは言葉を失った。
「ミナト……」
全てを投げ打って、ここまでの事を口にしてくれるミナトに、言いようの無い感情が溢れ出てくるのを感じた。
けれど、ミナト一人に全てを背負わせるわけにはいかない。
ありがとう。もう良いんだよ―――――と、突っ伏すミナトの背中に触れようとしたカヤは
「――――――……何故そこまで抵抗するのだ」
真後ろから聞こえてきた氷のような声に、ギクリと身を強張らせた。
次の瞬間、抱きかかえていたはずの蒼月が消えた。
カヤの背後には、いつの間にかハヤセミが立っていて、その腕の中には――――
「蒼月ッ!」
先程まで確かに腕の中に居た、我が子の姿が。
カヤが立ち上がった時には、既にハヤセミはカヤの手の届かない所へ離れていた。
「やめて!蒼月を返してっ……!」
本能的に飛びかかろうとしたカヤだったが、すんでの所で踏みとどまる。
今ハヤセミに何か危害を加えれば、蒼月の身が危ない、と思ったのだ。
成す術も無く立ち尽くしていると、ハヤセミは冷ややかにミナトを睨み付けた。
「良いか、ミズノエ。私はお前の忠誠など欠片すら望んでいない」
吐き捨てるように言って、それから真っ青になっているカヤに目を向ける。
「婚姻の儀まで御子は私が預かりますので、貴女は準備に専念して下さい」
普段見せるような嘲笑いすら浮かんでいない。
奇妙に無表情のままそう言ったハヤセミは、くるりと背を向けて部屋を出て行こうとした。
「本当にごめん、ミナト……どうかお願い……」
祈るように懇願した時、ミナトが大きく息を飲んだ。
「っざけんな……」
震える声が聞こえた。
驚いて顔を上げれば、ミナトの眉根はぐちゃぐちゃに歪んでいた。
「……俺は、こんな事のために、あの人にお前を渡したわけじゃねえんだよっ……」
振り絞るような声に、訳もなく呼吸が止まる。
「ッ兄上!」
次の瞬間、ミナトは意を決したように、ハヤセミに叫んだ。
「俺は婚姻の儀は挙げません!それが例え兄上の命令でもっ……琥珀の頼みだとしてもです!」
ミナトが勢いよく身を乗り出すので、手首を繋いでいる鉄格子が、ガシャンガシャンと揺れた。
その度にミナトの手首の縄が痛々しく食い込むが、彼はそんな事も意に介さない様子で、必死にハヤセミに訴えかける。
「兄上が望むのなら、俺は一生貴方に付いていきます!二度と裏切りません!今度こそ、俺の全てを掛けて忠誠を誓います!だから、琥珀も蒼月も自由にしてやって下さい!どうか後生で御座いますっ……!」
地に頭を擦りつける勢いで平伏したミナトに、カヤは言葉を失った。
「ミナト……」
全てを投げ打って、ここまでの事を口にしてくれるミナトに、言いようの無い感情が溢れ出てくるのを感じた。
けれど、ミナト一人に全てを背負わせるわけにはいかない。
ありがとう。もう良いんだよ―――――と、突っ伏すミナトの背中に触れようとしたカヤは
「――――――……何故そこまで抵抗するのだ」
真後ろから聞こえてきた氷のような声に、ギクリと身を強張らせた。
次の瞬間、抱きかかえていたはずの蒼月が消えた。
カヤの背後には、いつの間にかハヤセミが立っていて、その腕の中には――――
「蒼月ッ!」
先程まで確かに腕の中に居た、我が子の姿が。
カヤが立ち上がった時には、既にハヤセミはカヤの手の届かない所へ離れていた。
「やめて!蒼月を返してっ……!」
本能的に飛びかかろうとしたカヤだったが、すんでの所で踏みとどまる。
今ハヤセミに何か危害を加えれば、蒼月の身が危ない、と思ったのだ。
成す術も無く立ち尽くしていると、ハヤセミは冷ややかにミナトを睨み付けた。
「良いか、ミズノエ。私はお前の忠誠など欠片すら望んでいない」
吐き捨てるように言って、それから真っ青になっているカヤに目を向ける。
「婚姻の儀まで御子は私が預かりますので、貴女は準備に専念して下さい」
普段見せるような嘲笑いすら浮かんでいない。
奇妙に無表情のままそう言ったハヤセミは、くるりと背を向けて部屋を出て行こうとした。