【完】絶えうるなら、琥珀の隙間
得体の知れぬ暗闇が恐ろしくなったカヤは、とにかく誰かが近くに居ないかと思い、大声で叫んだ。

「っ誰か居ませんか!誰かー!」

狭い空間で叫んだせいか、カヤの声が、わんわんと反響した。

「翠ー!律ー!ミナトーッ!」

渾身の力で叫びきったカヤは、すぐにじっと耳を澄ませる。

しかしながら、カヤの呼び声に反応する声は一切聞こえなかった。


泣きそうになりながら、カヤは訳も無く辺りをキョロキョロと見回した。

目が慣れてきたのか、徐々に辺りの景色が明らかになっていく。

そうして目に映ったのは、大量の瓦礫が辺り一面に積み重なっている光景だった。

右を見ても、左を見ても、前も後ろを見ても、見えるのは瓦礫の山のみ。

どうやらカヤ達は、瓦礫が折り重なって出来た小さな空間の中に居るようだった。


(もしかして閉じ込められた……?)

信じたくはないが、そう思わざるを得なかった。


カヤが絶望している間にも、あちこちでガラガラガラ……と小さな岩が崩れ落ちる不気味な音が響く。

この空間も、いずれ崩れてしまうのではないか――――ぞっと背筋が凍った。


思わずよろめいたカヤの足に、カキン、と岩にしては高い音を立てて何かが当たった。

足元を見下ろしたカヤは、信じられない気持ちで眼を凝らした。

「これ……」

それを拾い上げ、じっと近くで見つめる。

つるりとした薄緑色の石が確認出来た時、驚きに息を呑んだ。


―――――翠から貰った短剣だ。

しかし何故ここに。これはハヤセミがカヤから奪ったはず。


(いや、考えても仕方ない)

今はこの空間から出る事が最優先だ。

カヤはお守りのようにギュっと短剣を握り締めると、深く深呼吸をして己を落ち着けた。


とにかく出口を捜して、脱出しなければ。

そう考えたカヤは、何処からか逃げられないか、再び辺りを覆う瓦礫を見回した。

目を凝らすが、隙間らしい隙間は全く見当たらない。

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