【完】絶えうるなら、琥珀の隙間
綺麗になった分の器を抱えて台所へ戻っていくナツナを見送り、カヤは再び手を動かす。
水に漬けっぱなしのためふやけた指で器をしっかり握りながら、ゴシゴシと力を込めて磨く。
太陽は真上まで昇り切り、少し下がり始めていた。
そろそろ翠が、外の広場で明日のお祈りの流れを確認する時間かもしれない。
そんな事を頭の隅で考えていると、背後から誰かの足音が聞こえた。
「あ、ナツナ?早かったね……」
その足音がナツナだと信じて疑わなかったカヤが、パッと振り向く。
「きゃっ」
しかしそんな短い悲鳴と同時に、目の前にバサバサと緑色の何かが落ちて来た。
驚いて地面を見ると、そこには白い花びらを携えた大量の花が散らばっていた。
視線を上げると、一人の少女がカヤを驚いたように見つめていた。
(見たことある子だ)
記憶の糸を手繰ると、数日前に自分にぶつかってきて翠の汁物をぶちまけた子だと思い出した。
緩く波がかった艶やかな黒髪のその少女は、どんぐりのような丸い瞳をカヤに向けたまま呆けている。
「……お、落としましたよ?」
ピクリとも動かないその少女の手から落ちてしまったらしき花を拾い上げようとすると、その子はハッとして叫んだ。
「触らないで!」
鈴を転がすような、しかしそれに似つかわしい鋭い声。
思わず手を止めると、少女は俊敏にしゃがみ込んで花を拾い集め始めた。
「これは祭事でお供えするお花なんだから!あなたが触って枯れてしまったらどうするのよ!」
可愛らしい声でそんな厳しい事を言われ、閉口する。
生憎そんな吃驚能力なんて持ち合わせていないのだが。
慌てた手つきで花を拾い終えた少女は、キッとカヤを睨んだ。
くりんとした瞳から発せられるその力強すぎる視線に、思わずたじたじとしてしまう。
「あんたなんかっ……あんたなんか、嫌い!なんであの方のお傍に居れるのよ!狡いのよ!」
まるで子供の癇癪のようにそう言い放ち、少女は踵を返してその場を走り去ろうとする。
が、一歩踏み出した途端に、足をもつれさせてその場に思いっきり転んだ。
「きゃあ!」
せっかく拾った花が、勢い良くその少女の体に押しつぶされてしまった。
悲惨なその状況を見て、傍観していたカヤの方が息を呑む。
「だ、大丈夫?」
危なっかしいその様子に、暴言を吐かれた事すら忘れて駆け寄る。
少女は痛みに呻きながらゆっくり体を起こし、そして石化してしまった。
「嘘……お花が……」
呆然としたその言葉に地面を見下ろすと、多くの花たちがくたりと項垂れているのが眼に入った。
どうやら今の衝撃で潰れてしまったらしい。
千切れてしまった白い花びらが風に舞って悲し気に飛んでいく。
水に漬けっぱなしのためふやけた指で器をしっかり握りながら、ゴシゴシと力を込めて磨く。
太陽は真上まで昇り切り、少し下がり始めていた。
そろそろ翠が、外の広場で明日のお祈りの流れを確認する時間かもしれない。
そんな事を頭の隅で考えていると、背後から誰かの足音が聞こえた。
「あ、ナツナ?早かったね……」
その足音がナツナだと信じて疑わなかったカヤが、パッと振り向く。
「きゃっ」
しかしそんな短い悲鳴と同時に、目の前にバサバサと緑色の何かが落ちて来た。
驚いて地面を見ると、そこには白い花びらを携えた大量の花が散らばっていた。
視線を上げると、一人の少女がカヤを驚いたように見つめていた。
(見たことある子だ)
記憶の糸を手繰ると、数日前に自分にぶつかってきて翠の汁物をぶちまけた子だと思い出した。
緩く波がかった艶やかな黒髪のその少女は、どんぐりのような丸い瞳をカヤに向けたまま呆けている。
「……お、落としましたよ?」
ピクリとも動かないその少女の手から落ちてしまったらしき花を拾い上げようとすると、その子はハッとして叫んだ。
「触らないで!」
鈴を転がすような、しかしそれに似つかわしい鋭い声。
思わず手を止めると、少女は俊敏にしゃがみ込んで花を拾い集め始めた。
「これは祭事でお供えするお花なんだから!あなたが触って枯れてしまったらどうするのよ!」
可愛らしい声でそんな厳しい事を言われ、閉口する。
生憎そんな吃驚能力なんて持ち合わせていないのだが。
慌てた手つきで花を拾い終えた少女は、キッとカヤを睨んだ。
くりんとした瞳から発せられるその力強すぎる視線に、思わずたじたじとしてしまう。
「あんたなんかっ……あんたなんか、嫌い!なんであの方のお傍に居れるのよ!狡いのよ!」
まるで子供の癇癪のようにそう言い放ち、少女は踵を返してその場を走り去ろうとする。
が、一歩踏み出した途端に、足をもつれさせてその場に思いっきり転んだ。
「きゃあ!」
せっかく拾った花が、勢い良くその少女の体に押しつぶされてしまった。
悲惨なその状況を見て、傍観していたカヤの方が息を呑む。
「だ、大丈夫?」
危なっかしいその様子に、暴言を吐かれた事すら忘れて駆け寄る。
少女は痛みに呻きながらゆっくり体を起こし、そして石化してしまった。
「嘘……お花が……」
呆然としたその言葉に地面を見下ろすと、多くの花たちがくたりと項垂れているのが眼に入った。
どうやら今の衝撃で潰れてしまったらしい。
千切れてしまった白い花びらが風に舞って悲し気に飛んでいく。