【完】絶えうるなら、琥珀の隙間
無残なその姿に、掛ける事ばが浮かばずカヤは黙り込んだ。
すると、目の前の少女は震える手で顔を覆った。
「ど、どうしよう……タケル様に叱られてしまう……翠様のお花なのに……」
そしてあっと言う間に、泣き出してしまった。
少女の口から出てきた『タケル』と『翠様』の言葉に、変に納得してしまった。
成程。
恐らくこの花は明日、翠が使うらしい。
(こんなに泣くなんて、翠の事そんなに慕ってるんだ……)
不憫な気持ちになりながらも、しかし完全に同情は出来ない自分が居た。
この子がわざとぶつかってきた事は許せないし、今だってカヤに厳しい言葉をぶつけてきた。
自分があのまま花を拾って、そしてそのまま黙って受け取っていればこんな事にはならなかっただろうに。
そんな複雑な気持ちを抱いたまま、目の前の少女を見つめる。
その清艶な黒髪を眺めているうちに、カヤはふと翠の黒髪を思い出した。
この子と違って翠の黒髪は流れるように真っすぐだけれど、深い夜の色はとても似ている。
そのせいか、あの日翠が一瞬だけ見せた危うさと、重なってしまった。
(……参ったなあ)
カヤは溜息を着くと、黙って地面に散らばる花を拾い始めた。
「な、ちょっと、あなた……!」
その行動に、少女が驚いたような声を上げる。
「心配しなくても枯れないよ」
被害を免れている花を手にして、ずいっと見せつけた。
当たり前だけど、青々とした緑色の茎は元気だし、白い花びらもそよそよと風に揺れている。
その様子を眼にし、少女は押し黙った。
無事な分の花を全て拾い集め、カヤは少女にそれを手渡す。
今度は大人しく受け取った少女の手の中の花は、かなりの量が減ってしまっていた。
これでは恐らく足りないだろう。
仕方ない。乗り掛かった舟だ。
「ねえ。この花どこに生えてるの?摘むの手伝うよ」
カヤがそう申し出ると、少女は衝撃を受けたように後ずさった。
「なっ……け、結構よ!」
未だ涙で覆われた眼を大きく見開きながら、跳ね付けられるようにそう言われる。
「良いから。その花を届けるのが、あなたの大切な役目なんでしょう?」
その瞳から一切眼を反らさずに言うと、少女は図星を付かれたように口ごもった。
やがて真っ赤になりながら俯くと、震える唇を小さく開いた。
「……わ、分からないのよ、どこに生えてるのか。これは明日の祭事のために、特別に取り寄せたものだから……」
消えてしまいそうな声で呟き、そしてまたぽろぽろと涙を零す。
「そうなの……」
困り果てながらその花を見やったカヤは、ふと目を止めた。
すると、目の前の少女は震える手で顔を覆った。
「ど、どうしよう……タケル様に叱られてしまう……翠様のお花なのに……」
そしてあっと言う間に、泣き出してしまった。
少女の口から出てきた『タケル』と『翠様』の言葉に、変に納得してしまった。
成程。
恐らくこの花は明日、翠が使うらしい。
(こんなに泣くなんて、翠の事そんなに慕ってるんだ……)
不憫な気持ちになりながらも、しかし完全に同情は出来ない自分が居た。
この子がわざとぶつかってきた事は許せないし、今だってカヤに厳しい言葉をぶつけてきた。
自分があのまま花を拾って、そしてそのまま黙って受け取っていればこんな事にはならなかっただろうに。
そんな複雑な気持ちを抱いたまま、目の前の少女を見つめる。
その清艶な黒髪を眺めているうちに、カヤはふと翠の黒髪を思い出した。
この子と違って翠の黒髪は流れるように真っすぐだけれど、深い夜の色はとても似ている。
そのせいか、あの日翠が一瞬だけ見せた危うさと、重なってしまった。
(……参ったなあ)
カヤは溜息を着くと、黙って地面に散らばる花を拾い始めた。
「な、ちょっと、あなた……!」
その行動に、少女が驚いたような声を上げる。
「心配しなくても枯れないよ」
被害を免れている花を手にして、ずいっと見せつけた。
当たり前だけど、青々とした緑色の茎は元気だし、白い花びらもそよそよと風に揺れている。
その様子を眼にし、少女は押し黙った。
無事な分の花を全て拾い集め、カヤは少女にそれを手渡す。
今度は大人しく受け取った少女の手の中の花は、かなりの量が減ってしまっていた。
これでは恐らく足りないだろう。
仕方ない。乗り掛かった舟だ。
「ねえ。この花どこに生えてるの?摘むの手伝うよ」
カヤがそう申し出ると、少女は衝撃を受けたように後ずさった。
「なっ……け、結構よ!」
未だ涙で覆われた眼を大きく見開きながら、跳ね付けられるようにそう言われる。
「良いから。その花を届けるのが、あなたの大切な役目なんでしょう?」
その瞳から一切眼を反らさずに言うと、少女は図星を付かれたように口ごもった。
やがて真っ赤になりながら俯くと、震える唇を小さく開いた。
「……わ、分からないのよ、どこに生えてるのか。これは明日の祭事のために、特別に取り寄せたものだから……」
消えてしまいそうな声で呟き、そしてまたぽろぽろと涙を零す。
「そうなの……」
困り果てながらその花を見やったカヤは、ふと目を止めた。