【完】絶えうるなら、琥珀の隙間
少女に大切に抱かれているその白い花に、見覚えがある気がしたのだ。

(どこかで見たような気がする……どこだっけ……?)


「って、森!」

いきなり叫んだカヤに、少女がビクッと肩を揺らした。

「え?何よ?」

「この花、森に生えてた気がする……よし、行こう。取りに行こう」

「え?え?」

戸惑う少女の手首を引っ掴んで、走り出す。
と、丁度戻ってきたらしきナツナと鉢合った。

「わっ、カヤちゃん!?……と、ユタちゃん?どうしたのですか?」

仰天したようなナツナの眼が、カヤから少女に移る。

どうやらこの子は『ユタ』と言う名らしい。
2人は顔見知りのようだ。

「本当にごめん、ナツナ。ちょっと森に行ってきても良い?なるべくすぐ戻るから」

「え?森ですか?」

ぱちくりと眼を瞬かせたナツナは、ユタの手の中の花を見据えた瞬間、何か納得したように小さく頷いた。

「……ああ、なるほどですね。ここは大丈夫なので、行ってきて下さいな」

ニッコリと笑うナツナの空気を読む素晴らしさに、舌を巻きながら「ありがとう!」と返事をする。

カヤ達は今度こそ勢いよく走り出した。

祭事のせいか、いつもより人が多い村をユタを引っ張りながら走り抜け、一直線に森へと向かう。

やがて二人は息を切らしながら森へと足を踏み入れた。

「ね、ねえっ……どこに咲いてるの、花は……?」

ぜえぜえと息を切らすユタに、同じくカヤも息も絶え絶えになりながら答える。

「はあ、はあ……どこだったかな……確か、こっちだったような……」

曖昧な記憶を頼りに茂みへと足を踏み入れる。
ユタは疑わし気な顔をしながらも大人しく着いてきた。

正直、こんなどこにでも咲いているような花、すぐに見つかるだろうと高を括っていた。


――――だがそんなカヤの考えは甘かったらしく。




「ぜ、全然無いじゃないの……!」

疲れ切ったような声を上げて、ユタはその場に座り込んでしまった。

「あれー……おっかしいなあ……」

滴る汗を拭いながら、カヤも思わずその場にしゃがみこむ。

花を探し初めてかなりの時間が経っていた。

未だ二人は、ユタの腕に抱かれている花と同じ花を一輪も見つけられずに居た。

違う色の花や形の違う白い花なら生えているのだが、肝心の探している花は、どこにも見当たらないのだ。

息を整えながら、木々の間から空を見上げる。

太陽はかなり低い位置にまで下がってきており、もたもたしているとこのまま夕刻になってしまいそうだ。

焦りを抱きながら、カヤが疲れた足に鞭を打って立ち上がった時だった。


「……もう、良いわよ」

ぽつりとユタが弱音を零した。
カヤが振り返ると、ユタは地面に座り込みながら力なく俯いていた。

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