【完】絶えうるなら、琥珀の隙間
「元はと言えば私が全部悪いんだもの……ここまであなたにしてもらう義理、無いわ……だからもう良い……」
そう言いながらギュっと花を抱き締めるユタ。
その言葉からは『もう良い』なんて気持ち、一欠けらさえ感じ取れない。
カヤはユタの手首を引っ掴んで、無理やり立ち上がらせた。
「諦めるにはまだ早い」
「だって……だって……」
俯くユタの眼から涙が零れ落ち、ぽとぽとと地面に染みを作る。
びっしりと密集したその睫毛が、ふるりと震えた。
こんなにも悲痛な感情を無防備なほど剥きだしにされ、カヤは思わず頭に被っていた布でユタの顔をごしごしと拭いた。
「ああ、もう……泣きすぎ!」
「うー……」
全く、とんでもない泣き虫だ。
「ほら、もう少し探そう。ね?」
小さい子に言い聞かせるようにそう言うと、ユタは涙を拭いながら頷いた。
その手を引きながらカヤは目の前の茂みを掻き分けた。
(絶対、絶対、どこかにあるはずだ)
必死に眼を光らせながら、少し森を進んだ時だった。
「……あ!」
後ろでユタが声を出した。
急いで振り返ると、ある一点を見つめていた。
「あった……」
震える言葉にカヤもユタの視線の先を見やる。
そこには、生い茂る草に隠されるようにして、白い花が凛として立っていた。
「あったあ!」
胸を躍らせながら、二人はその花へ駆け寄った。
そっと花びらに触れ、ユタが持っている花を比べる。
どこからどう見ても、同じ花だった。
「あった……!良かった……!」
心の底から安心したような表情のユタは、また今にも泣きだしてしまいそうだ。
「ほら、摘もう」
「ええ」
カヤの言葉にユタは鼻をすすりながら丁寧に花を摘み始めた。
カヤも手伝って残りの花を摘んでいく。
やがてその場に生えていた花を全て摘み終えた頃、ユタの腕の中の花はここに来たときよりも随分増えていた。
しかし。
「……まだ少ないね」
「そうね……」
この場の花だけでは、どうも足りないようだ。
焦りながら辺りを見渡すが、見える範囲に白い花は見当たらない。
高揚していた気分がしゅるしゅると落ちてくる。
ユタの表情も暗い。
「……他の場所も探そう」
諦めずにそう声を掛けるが、ユタはふるふると首を横に振った。
「もう駄目よ、夕方になってしまうわ。これ以上探していたら間に合わないっ……」
ユタの言う通り東の空は群青に染まり始めていた。
悔しさから唇を噛みしめるカヤの眼に、ふとあるものが映った。
―――それは、赤い花だった。
先ほどから何回か眼にはしていたものの、気にも留めなかった花だ。
濃いその赤は、なんだか泣きすぎて目元を染めているユタを思わせた。
「……ユタ。祭事に使うのって、絶対にその花じゃないと駄目?」
静かに問いかけたカヤに、ユタが戸惑ったような表情をする。
「え、ええ……毎年翠様がお使いになるのはこの白い花だっていう事は決まっているわ……」
「その花"だけ"じゃないと駄目って言う事も決まってる?」
「いえ、それは決まってないけれど……なんでそんな事……」
不思議そうに言ったユタが、ハッとした表情となる。
「まさか……」
「うん。違う花を混ぜよう」
きっぱりとそう言って、カヤは赤い花を手早く摘み始めた。
そう言いながらギュっと花を抱き締めるユタ。
その言葉からは『もう良い』なんて気持ち、一欠けらさえ感じ取れない。
カヤはユタの手首を引っ掴んで、無理やり立ち上がらせた。
「諦めるにはまだ早い」
「だって……だって……」
俯くユタの眼から涙が零れ落ち、ぽとぽとと地面に染みを作る。
びっしりと密集したその睫毛が、ふるりと震えた。
こんなにも悲痛な感情を無防備なほど剥きだしにされ、カヤは思わず頭に被っていた布でユタの顔をごしごしと拭いた。
「ああ、もう……泣きすぎ!」
「うー……」
全く、とんでもない泣き虫だ。
「ほら、もう少し探そう。ね?」
小さい子に言い聞かせるようにそう言うと、ユタは涙を拭いながら頷いた。
その手を引きながらカヤは目の前の茂みを掻き分けた。
(絶対、絶対、どこかにあるはずだ)
必死に眼を光らせながら、少し森を進んだ時だった。
「……あ!」
後ろでユタが声を出した。
急いで振り返ると、ある一点を見つめていた。
「あった……」
震える言葉にカヤもユタの視線の先を見やる。
そこには、生い茂る草に隠されるようにして、白い花が凛として立っていた。
「あったあ!」
胸を躍らせながら、二人はその花へ駆け寄った。
そっと花びらに触れ、ユタが持っている花を比べる。
どこからどう見ても、同じ花だった。
「あった……!良かった……!」
心の底から安心したような表情のユタは、また今にも泣きだしてしまいそうだ。
「ほら、摘もう」
「ええ」
カヤの言葉にユタは鼻をすすりながら丁寧に花を摘み始めた。
カヤも手伝って残りの花を摘んでいく。
やがてその場に生えていた花を全て摘み終えた頃、ユタの腕の中の花はここに来たときよりも随分増えていた。
しかし。
「……まだ少ないね」
「そうね……」
この場の花だけでは、どうも足りないようだ。
焦りながら辺りを見渡すが、見える範囲に白い花は見当たらない。
高揚していた気分がしゅるしゅると落ちてくる。
ユタの表情も暗い。
「……他の場所も探そう」
諦めずにそう声を掛けるが、ユタはふるふると首を横に振った。
「もう駄目よ、夕方になってしまうわ。これ以上探していたら間に合わないっ……」
ユタの言う通り東の空は群青に染まり始めていた。
悔しさから唇を噛みしめるカヤの眼に、ふとあるものが映った。
―――それは、赤い花だった。
先ほどから何回か眼にはしていたものの、気にも留めなかった花だ。
濃いその赤は、なんだか泣きすぎて目元を染めているユタを思わせた。
「……ユタ。祭事に使うのって、絶対にその花じゃないと駄目?」
静かに問いかけたカヤに、ユタが戸惑ったような表情をする。
「え、ええ……毎年翠様がお使いになるのはこの白い花だっていう事は決まっているわ……」
「その花"だけ"じゃないと駄目って言う事も決まってる?」
「いえ、それは決まってないけれど……なんでそんな事……」
不思議そうに言ったユタが、ハッとした表情となる。
「まさか……」
「うん。違う花を混ぜよう」
きっぱりとそう言って、カヤは赤い花を手早く摘み始めた。