【完】絶えうるなら、琥珀の隙間
「わ、悪かったわよ……!酷い事したと思ってるわよ!そうよ、全部タケル様の事よ、文句ある!?」

やけくそのようにユタが言い放つ。

「……翠様の事を言ってるのかと思ってた」

呆然としながら呟くと、ユタは怪訝そうに眉を寄せた。

「翠様?そりゃあ翠様は別格よ!……でも、私がお慕いしているのは……」

そう言って黙りこくってしまったユタを、カヤは眼を瞬かせて見つめるしかない。
一人であたふたしているユタに、ナツナがゆったりと言った。

「ほんとに恋する乙女ですねえ、ユタちゃんは」

「からかわないで!い、言っとくけど絶対に秘密よ!タケル様に言ったら承知しないんだから!」

ビシッと指を突き付けられ無意識のように頷くと、ナツナが慌てたように口を開いた。

「あ、ユタちゃん!早くしないとタケル様行っちゃいますよ!」

その言葉に3人は顔を揃えて建物から顔を出した。

タケルは、こちらに背を向けて歩き出して行ってしまおうとしている所だった。

「あ、あ……行ってしまわれるわ……」

「ほら、早く!行くのですよ!」

「きゃあ!」

ナツナに背中を押されたユタは、勢いよく建物の影から飛び出た。

真っ赤な顔でこちらを向くユタに、ナツナが「早く、早く」と小声で声を掛ける。

ユタはしばし迷った様子を見せたが、やがて意を決したようにタケルの背中を追って走り出した。


カヤ達は固唾を呑んでその動向を見守る。

人ごみを抜けてタケルに追いついたユタは、大切に持っていた包みをタケルに向かって差し出した。

何を話しているのかは聞こえないが、背中を直角に折り曲げながら必死に包みを差し出すユタの背中はとても小さい。

タケルは一瞬驚いて自分自身を指さしたが、やがてその大きな手で包みを受け取った。

そして間違いなくユタに笑いかけ、頭2つ分くらい違うユタの頭をぽんぽんと撫でた。

何度も何度もお礼を繰り返すユタに手を振り、タケルはのっしのっしと人ごみへと紛れて行った。


(……あれは絶対ユタの気持ちには気づいてないな)

鈍感そうだもんな、あの人。


少しユタを気の毒に思ったが、両手で顔を覆いながら帰ってきたユタの表情を見て、その考えはすぐに吹き飛んだ。

笑っているのに、苦しそうで、泣きそうで、でも信じられないくらいに幸せそうな顔。

カヤが初めて見る種類のその表情は、凄く眩しかった。


「渡せて良かったですねえ!お疲れ様です!」

小走りで戻ってきたユタを、ナツナが激励をした。

「ナツナが押すからでしょう!もー!……けど、おかげで渡せたわ。ありがとう」

「えへへー良かったです。……でも、まだ一つ包みが残ってますよ、ユタちゃん。早く渡しましょう?」

ナツナが意味ありげに言った言葉に、カヤはようやくユタの手の中にもう一つの包みが残っている事に気が付いた。

てっきり二つともタケルに渡すものだと思っていたのだが。


「誰に渡すの?」

思わず尋ねたカヤに、ユタはきゅっと唇を結んだ。

「あ、あなたよ!」

―――ズイッと、目の前に包みが突き出された。
せっかく少し引いていたユタの顔の赤みが、面白いくらいに一瞬で戻ってくる。

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