【完】絶えうるなら、琥珀の隙間
うるんだ瞳が、まるで母性に訴えかけてくるように揺れた。
しかし、自分の髪を狙うための姑息な手段とも思えて仕方が無い。
「私に構わないでください、帰って下さい」
そこまで言うと、ようやく目に見えてナツナが傷ついた。
ぢくり。
馬鹿な事に、自分の心臓も傷ついた。
「――――そんな奴、放っておけ。ナツナ」
ぽん、と立ち尽くすナツナの肩に誰かの手が乗った。
無骨で日に焼けた手だ。
「ミナト……」
ナツナが、その手の持ち主をそう呼んだ。
『ミナト』と呼ばれた男は、入口の木枠の外側からゆらりと身体を表した。
「お前か。村中の噂になってる女ってのは」
がっしりとした体形のその男は、カヤやナツナより頭一つ分大きい。
肩くらいまでありそうな髪は、タケル同様に後ろで一つに縛られていた。
恐らく普通にしていれば、涼し気な切れ長の眼もとなのだろう。
だが、生憎青年の眼はカヤを強く睨みつけていた。
親密そうな2人の様子から察するに、夫婦か、はたまた恋仲か。
「人の好意を丸無視か。どんだけ性格悪いんだよ」
さげすむような物言いが、良くは無かった気分を更に悪くさせる。
いきなり現れて、いきなり罵るか。
褒められた態度では無い事は重々承知しているが、この男に言われる筋合いも無いと思う。
「そう思うならさっさと帰れば。性悪がうつるよ」
「言われなくても」
ミナトは肩を竦めると、ナツナに「行くぞ」と声を掛けた。
ナツナは悲しそうな眼でカヤを見つめた後、大人しくミナトに着いて去っていった。
2人の姿が完全に消えた頃、立ち上がっていたカヤは、またゆっくりと床に腰を下ろし、膝を抱えた。
「あー……」
呻くように声を吐き、後ろへと体重を掛ける。
ゴン!と後頭部が床にぶつかったが、寝転がる事に失敗したわけでは無い。故意にだ。
そのままカヤは、四肢を投げ出して仰向けになった。
――――あの二人が隣人なのか。
そう考えると、えも言えぬ不快感が腹に圧し掛かってきた。
それを紛らわせたくて、カヤは無理やりに眼を閉じた。
しかし瞼の裏に、親し気にナツナの肩に置かれたミナトの手が浮かんでくる。
あの穏やかそうな少女は、どうやら無条件に庇ってもらえる手を持っているらしい。
羨ましい限りだ、と感じた自分は、きっと嫉んでいた。
(とは言え、きっと誰でもその手を一つは持っているんだろうな)
だから、せめて悪くは思うまい。
それを持っていないカヤが可笑くて、悪いだけなのだ。
しかし、自分の髪を狙うための姑息な手段とも思えて仕方が無い。
「私に構わないでください、帰って下さい」
そこまで言うと、ようやく目に見えてナツナが傷ついた。
ぢくり。
馬鹿な事に、自分の心臓も傷ついた。
「――――そんな奴、放っておけ。ナツナ」
ぽん、と立ち尽くすナツナの肩に誰かの手が乗った。
無骨で日に焼けた手だ。
「ミナト……」
ナツナが、その手の持ち主をそう呼んだ。
『ミナト』と呼ばれた男は、入口の木枠の外側からゆらりと身体を表した。
「お前か。村中の噂になってる女ってのは」
がっしりとした体形のその男は、カヤやナツナより頭一つ分大きい。
肩くらいまでありそうな髪は、タケル同様に後ろで一つに縛られていた。
恐らく普通にしていれば、涼し気な切れ長の眼もとなのだろう。
だが、生憎青年の眼はカヤを強く睨みつけていた。
親密そうな2人の様子から察するに、夫婦か、はたまた恋仲か。
「人の好意を丸無視か。どんだけ性格悪いんだよ」
さげすむような物言いが、良くは無かった気分を更に悪くさせる。
いきなり現れて、いきなり罵るか。
褒められた態度では無い事は重々承知しているが、この男に言われる筋合いも無いと思う。
「そう思うならさっさと帰れば。性悪がうつるよ」
「言われなくても」
ミナトは肩を竦めると、ナツナに「行くぞ」と声を掛けた。
ナツナは悲しそうな眼でカヤを見つめた後、大人しくミナトに着いて去っていった。
2人の姿が完全に消えた頃、立ち上がっていたカヤは、またゆっくりと床に腰を下ろし、膝を抱えた。
「あー……」
呻くように声を吐き、後ろへと体重を掛ける。
ゴン!と後頭部が床にぶつかったが、寝転がる事に失敗したわけでは無い。故意にだ。
そのままカヤは、四肢を投げ出して仰向けになった。
――――あの二人が隣人なのか。
そう考えると、えも言えぬ不快感が腹に圧し掛かってきた。
それを紛らわせたくて、カヤは無理やりに眼を閉じた。
しかし瞼の裏に、親し気にナツナの肩に置かれたミナトの手が浮かんでくる。
あの穏やかそうな少女は、どうやら無条件に庇ってもらえる手を持っているらしい。
羨ましい限りだ、と感じた自分は、きっと嫉んでいた。
(とは言え、きっと誰でもその手を一つは持っているんだろうな)
だから、せめて悪くは思うまい。
それを持っていないカヤが可笑くて、悪いだけなのだ。