御曹司は偽婚約者を独占したい
心臓は、ドキドキと早鐘を打つように高鳴っている。
彼からどんな答えが返ってくるのか、想像することも辛くて、今すぐこの場から逃げ出したくて、たまらなかった。
「だったらなんで、指輪を受け取らなかったんだ?」
「え……?」
「俺のことが好きだと言うなら、どうしてあの指輪を受け取らなかった。フィアンセの件も他を当たれと言ったり……荷が重いなんて言ったんだ」
けれど、想像していた言葉とはまるで違う答えが帰ってきて、思わず首をひねってしまった。
近衛さんは近衛さんで、とても難しい表情をしている。
でも……だって、あの指輪は……。
確かに受け取らなかったけれど、それは私が近衛さんを好きだからこそ、間に合わせなんて言い方をされて悲しくなったことが理由だった。
フィアンセの件も、そうだ。
そんなことで悲しくなる自分には彼の偽のフィアンセを演じることは不可能だと思ったから、荷が重いと言って断ったのだ。
それはすべて、近衛さんはビジネスの一環で、私に甘い言葉を囁いたりしていたのだと自覚していたからでもある。
身分をわきまえていたつもりだし、彼に何を言われようとも、変な期待はしてはいけないと、自分自身に言い聞かせていたから──。