御曹司は偽婚約者を独占したい
「私、あなたに、良いところを見せたかったんです」
丸いトレーを抱くようにしながら震える息を吐き出すと、自然と顔が綻んだ。
「あなたの前で、カッコつけたかったの。私は……あなたのことが、好きだから」
鼻の奥が、ツンと痛む。
言葉にした途端に想いはあふれ出し、もう止めることはできなかった。
「好きです、近衛さん。私は……あなたが今飲んでいるコーヒーと同じように、あなたにとっての〝特別〟になりたい」
涙が一筋、頬を伝って零れ落ちた。
──叶わない恋だとわかっていても、今、どうしても彼を諦められない。
だからせめて、想いだけでも伝えたかった。
ううん、もう、伝えずにはいられなかった。
それほど私は今、彼に惹かれてしまっているから──。
彼の特別になりたいと、願わずにはいられなかった。
「……少し、整理する時間をくれ」
と、不意にそう言った彼は、持っていたカップをソーサーに戻した。
そして口元に手を当て、何かを考え込むようにしたあとで、再び真っすぐに私を見つめた。