御曹司は偽婚約者を独占したい
「なぁ、本当に連れてくるのか?」
雲ひとつない晴天に恵まれた佳き日。
控え室で、ニヤニヤと面白そうに笑う男を相手に、今日何度めかの舌を打った。
今日はこれから、この男──友人でもあり、ルーナの社長を務める上司、〝湊(みなと)〟の結婚披露宴が執り行われる。
心なしか彼の声が弾んでいるのは、もうしばらくもしないうちに花嫁の支度が整うと伝えられたからだろう。
今回の挙式と披露宴に至るまでは、花嫁の親族の事情もあり、それなりの時間を要した。
だからこそ、友人としても秘書としても感慨深くは感じているのだけれど……。
湊が朝から披露宴とは関係のないところで笑うので、こちらは苛立って仕方がなかった。
「俺の親父も、近衛のフィアンセに会えるのが楽しみだって言ってたぞ。むしろ、披露宴よりも、近衛がどんな子を連れてくるのか気になっているふうだったな」
既にタキシードに着替え終えた湊は、無駄に長い脚を組み直した。
湊の父親……ルーナの親会社であるウィズウエディング代表取締役社長には、以前から良くしてもらっていた。
好奇心旺盛で、こうと決めたら己の道を突き進む。そんな息子を任せられるのは君しかいないと、酒の席では口を酸っぱくして言われるのだ。
こちらとしては、その延長で、どこぞの令嬢との見合いを勧められたりと、少々面倒くさいところもあるのが本音なのだが。