御曹司は偽婚約者を独占したい
 


「……お互い、良い相手に恵まれたな」


呟くと、湊は「そうだな」と面白そうに笑ってみせる。

多分、俺が俺と自分のことを言ったのだと勘違いしたのだろう。


「そんなわけで、話も区切りがついたし、俺はそろそろ桜(さくら)のところに行ってくるかな」


桜、とは、湊の妻となった女性の名前だ。

名前の通り、春の柔らかさを纏った、心優しく芯のある女性だった。


「秘書として、ついて行ってやろうか?」


散々からかわれた腹いせに、ツイ、と顎を上げて言えば、湊はすぐに反論する。


「おい、やめろ。絶対来るなよ。桜のウエディングドレス姿を一番に見るのは、俺って決まってるんだから」


子供のような物言いに、今度こそ声をこぼして笑った。

俺が美咲に溺れているように、湊も妻に溺れているのだ。

そんな湊と妻の披露宴が終わったあとは、祝賀会が待っている。

祝賀会には仕事の関係者が多数招かれているし、今日は一日、気を抜くことはできないだろう。


「それでも、楽しみだな」

「うん?」


ぽつりと呟くと、湊が不思議そうにこちらを見た。

 
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