御曹司は偽婚約者を独占したい
「あー……もう、疲れる……」
そうしてたどり着いたコンビニの軒下で、私は顔に張り付いた前髪をかき上げた。
急に雨脚が強くなったせいで、靴の中まで濡れてしまった。
ブラウスも肌に張り付いて気持ちが悪い。でも、もうあとは家に帰るだけだし諦めよう。
帰ったらすぐに温かいシャワーを浴びて、冷たくなった身体を暖めればいい。
そんなことを考えながら、気持ちを切り替えた私は傘を買うためにコンビニの中へ入ろうとした。
「え…………」
すると、タイミングよく開いた自動扉の前で予想外の人と出くわして、思わずその場に足を止める。
「こ、近衛さん……?」
「美咲? そこで、何して……」
驚いた表情をした彼は、いつものスーツ姿ではなかった。
グレーのカットソーに黒いシャツチェスターコートを羽織り、細身のジーンズを履いている。
ラフな出で立ちなのにYラインのシルエットが綺麗で、初めて見る彼の私服姿に見惚れてしまった。
……近衛さんも、コンビニなんて来ることがあるんだ。
なんだか、近衛さんとコンビニって似合わないなぁ……なんて思ってしまうのは、彼が雲の上の人だと知っているからなのだろう。