【短編】ホワイトデーには花束を、オレンジデーには甘いキスを(三人称)
全身疲労で体はまともに動けないのに、心臓だけは激しく鼓動する。佳織は胸が張り裂けそうなほどに緊張しているのに、課長はなにごともないのようにメニューを開いて指をさす。それも、しれっと佳織の顔をのぞきながら。佳織がほんの少し、寄り添おうものなら、頬が触れ合ってしまいそうなほどの距離で。
(わざと?…… まさか。混んでてぎゅうぎゅうだからしかたなしにだよね……。課長がこんな私となんて)
届いたジョッキで乾杯した。課長はのどぼとけを大きく揺らしながら半分ほどを一気にあけた。佳織もそれに続くが、まったく味がしない。乾いたのどを潤す役割だけだった。
その後も課長は佳織に話しかけてくる。届いたピザやサラダを課長が取り分け、佳織は筋肉痛に耐えながら、ドキドキする胸を心の中で押さえながら、箸で口に運ぶ。こんなに鼓動して、私の心臓は突然フリーズして止まってしまうんじゃないか、そんな心配をして脳内がふわふわとする。
「真船、顔が赤いな」
「よ、酔ってしまったのかもしれません。運動したあとに飲んだから」
「かわいいよ、仕事中と違った雰囲気で」