【短編】ホワイトデーには花束を、オレンジデーには甘いキスを(三人称)
浴室からの明かりで人影が壁に映る。佳織は慌てて布団にもぐった。隙間からのぞくと、そこには白いガウンを羽織った課長がいた。濡れた髪を下ろし、ふう、とため息をつく課長。
佳織はどきりとした。大人の色香が漂う、普段の課長とは違う男性に胸が高鳴る。

(こ、こっちに来たらどうしよう……?)

心配する佳織の気持ちとは裏腹に、課長は佳織が起きたことに気付かないのか、そのまま壁際のデスクに座った。モバイルパソコンを開き、何かを打ち込み始めた。仕事をしているようだ。

(課長、大変だな。こんな時間まで仕事なんて)

そんな課長を見て佳織は恥ずかしくなった。寝込みを襲うためにここに自分を連れてきたなどと考えてる自分に。

(課長がそんな卑怯なことをする人じゃないって知ってるのに。だから私は好きになったのに)

胸がチクリと痛む。課長にとって自分はそういう対象じゃないって気づかされたから。酔って帰れなくなった部下を放っておけず、近場のホテルに連れてきてくれたのだから。

(結ばれないひとを好きになるって辛いな)

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