【短編】ホワイトデーには花束を、オレンジデーには甘いキスを(三人称)

佳織から目をそらし、飛び上がるように立ち上がるとくるりと背中を向けた。

「つい、すまない……」
「い、いえ」

そのあとは2人は無言だった。課長は再びデスクに戻り、キーボードを叩く。佳織の心臓は激しいまま鼓動する。憧れの課長に額といえどキスをされたのだから。
しかししばらくして佳織は考えた。課長が慌てて発した言葉を反芻し、意味を考える。つい、というのは気持ちもなくキスをしてしまったということ?、そしてすまないというのは謝ったということ……。佳織はベッドのなかで頭を振った。課長がただのオスの反応として気持ちのない女性にキスをしたとは考えたくなかった。いまのはキスではなかったのかもしれない、ただの私の勘違いだ。そうだ、うとうとしていて、自分が思い違いをしてしまったのだと考えることにした。

それに。同期の萌絵は課長のことが好きなのだ。課長が私を好きだなんてありえないし、私を好きでも困るのだ。佳織はぎゅっと目をつむる。そのせいで目尻から暖かい液体が一粒こぼれた。

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