【短編】ホワイトデーには花束を、オレンジデーには甘いキスを(三人称)

真佐課長はすでに出勤しており、一番奥の席で書類を眺めていた。佳織を見つけると眉を寄せ、少し困ったような表情をした。佳織は会釈して課長から視線を逸らせた。いつもの課長だ。
(きっと何もなかったんだ。キスされたなんて私の勘違いだった)
ほっとしたような、少しがっかりしたような気持ちで佳織は自席についた。するとすかさず隣にいた萌絵が佳織の顔を覗き込んでいた。

「佳織、そのスカート、昨日もはいてたよね?」
「え? あ、そうかも。間違えてはいてきちゃった」
「メイクも今日は乗ってないね。何かあった?」
「ううん、別に」
「ふうん。まあいいけど」

萌絵は不服そうに目を細めて、立ち上がった。書類を課長に提出するようだ。萌絵は鋭い。泊まりになるとは思わなかったのでメイク道具は持っていなかった。間に合わせのBBクリームにファンデを乗せただけだ。入社してからずっと近くにいたから佳織の変化にも鋭く気づくのだろう。きっと朝帰りだと気づかれたに違いない。
(でも、相手が課長だとはわからないだろうし。それに課長と何もなかったんだし)
そう自分に言い聞かせるも、どことなく落ち着かない。それは友人の好きな人とふたりの時間を過ごしてしまったからに他ならない。

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