初恋をもう一度。【完】
選んだのは、ショパンのノクターン第2番。

とてもロマンチックな曲だ。

遠慮がちに始まる静かなメロディは、でも、時々気持ちを抑えきれないように高音へと駆けて行く。

まるで、触れたくても触れられないものに手を伸ばしているかのよう。

わたしが演奏している間、鈴木くんはずっとすぐ後ろで聴いていてくれた。

とても嬉しいけれど、落ち着かない。

ピアノに向かっているのに、背中に意識が行きっぱなしだ。

近過ぎる距離にそわそわして、いつもより少し弾くテンポが速い気がする。

胸が甘く締めつけられるのは、きっとノクターンの美しく繊細なメロディのせいだけじゃない。

パチパチパチ……。

わたしが弾き終えると、鈴木くんは拍手をくれた。

「やっぱり奈々ちゃんのピアノ、いいね」

「そ、そんな、拍手なんて……」

恥ずかしくなって俯くと、鈴木くんはくすくすと笑った。
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