初恋をもう一度。【完】
「ね、今日は奈々ちゃんが何か弾いて」
鈴木くんが笑顔でそんなことを言うから、わたしはあわあわしながら両手を振った。
「わ、わたしは下手だからいいよ」
「俺言ったでしょ? 奈々ちゃんのピアノ好きだって。伴奏なんかじゃなくて、ちゃんと聴いてみたいな」
「……ほんとに、下手だからね?」
わたしは断るという行為が、とにかく苦手中の苦手なのだ。
その相手が、好きな人なら尚更だ、嫌なんて言えるわけがない。
鈴木くんが立ち上がって空いたピアノの椅子に、わたしはゆっくりと腰を下ろした。
鈴木くんは、わたしのすぐ後ろに立った。
「えっと……曲、なんでもいいの?」
わたしは彼を振り返って訊いた。
「うん、いいよ」
「ほんとのほんとに下手だよ?」
「あはは、大丈夫だって」
「うーん、わかった。じゃあ……」
わたしは前を向いて、すぅっと息を吸い込んだ。